12人が本棚に入れています
本棚に追加
きっかけ
自分の容姿を特に気にした事はなかった。
特別醜いだとか、美人だとか考えた事もなく日々を暮らしている。
そんな中、私は階段から降りて来た野球部員が、一人ずつ投げかけて来た言葉に深く傷付いた。
最初の一人目は、私をチラリと見て何も言わずに通り過ぎて行った。
階段の端で彼らが通り過ぎて行くのを待ちながら、私は憂鬱になる。
ユニフォームを来た彼らが次々と言った「ブス」という言葉の10連発。
目が合う度に彼らは通りすがりにそう言っていた。
最初に言った男の子は、ひときわ体の大きな子で、ボスという風格があった。
とりあえず、その子が言ったから後の男の子は団体競技にありがちな協調性を表して言っただけかもしれない。
「ブス!」
1日の10分も満たない間にブスと言われた回数、10回。
本当にそれぞれの子がそう思っているかどうかは別として、その心ない言葉に深く傷付いた私は、中学2年生。
何も考えず、それをそのままの言葉の意味と捉えて『自分はどうしようもないブスだ』と思い込んだ。
そんな時、私は彼に出会った。
少し間を空けて降りて来た男の子。
制服姿の彼は、やっぱり野球部員達と同じように降りて来て私の顔を見て言った。
「君は可愛いよ」
呟くように、頬を染めながら。
そのはにかんだ笑顔を私は忘れない。
最初のコメントを投稿しよう!