11 さぽーとねこ

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「年末帰ってくるんでしょ?」  母の問いに春姫は「シロネコ」のライングループを見ながら答えた。 「大晦日に社長の家で上司と年越しパーティーするから、二日に帰るよ」 「それ仕事か?」  父が声をひそめた。ブラックじゃないの、と暗に言われているような気がする。 「完全にプライベートだよ。楽しみ」  心配をかけないように笑顔で答えたら、声が弾んでしまった。 「いい人たちと働いてるのね」  母がふふっと笑う。 「うん。前の会社辞めて良かった。でなきゃ、こんなに最高の上司に出会えなかったから」 「そう思える人たちと出会えることって、そうそうないわよ。春姫の選択は間違ってなかったってことね」 「これからも人生長いから、後悔しないように生きなさい」  母と父のあたたかい言葉に、春姫は泣きそうになった。 「ありがとう」 「じゃあ、二日に帰ってくるの楽しみにしてるわね」 「体に気をつけて過ごすんだぞ」 「うん、お父さんとお母さんもね。良いお年を」 「またね」  通話を終了した。堰を切ったように、春姫の目からとめどなく涙があふれた。
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