エピローグ 新年に乾杯!

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エピローグ 新年に乾杯!

 新山のマンションはとても広かった。リビングだけでも春姫の住むワンルームの二倍はある。その中心にあるテーブルを囲むようにソファがL字型に置いてある。新山がLの長い方、その隣に春姫、もう一つのソファに押村と夏木が並んで座っていた。  ニイヤマから出向していた社員は、実家に帰るということで今日は四人だ。  夜七時から集まり、ひとしきり食事を終えたあと、ポテトチップスやさきいかをつまみに、酒を飲みながらくつろいでいた。 「あっ、ほら見て。カウントダウン始まった」  伸びあがって壁際のテレビを指差した押村が言う。 「一緒にカウントダウンしようぜ。きゅう、はち、なな……」  夏木もそれに乗る。 「夏木は相変わらずそういうこと好きだよな」  新山が呆れたように笑った。 「まあまあ、固いこと言わずに」  押村に促され、最後の三秒は四人で声をそろえた。 「さん、にぃ、いち!」 「あけましておめでとう!」  テレビの音をかき消すほど大きな声で、押村が言った。 「……びっくりしたぁ」  押村の隣に座っていた夏木は耳をおさえている。 「あと夏木もおめでとう」  押村が夏木の肩をばしっと叩く。 「おま、去年の約束忘れただろ!」  夏木が押村をにらんだ。 「約束ですか?」  耐えきれずに春姫が口を挟むと、夏木が唇を尖らせる。 「そう。実態のない新年よりも、目の前の俺を先に祝えってこと」 「それってどういう……?」  春姫が首を傾げる。新山が小声で補足説明してくれた。 「つまり、自分の誕生祝いを催促してるってことだ」  春姫は、客として「ねこ」を契約した日のことを思い出した。そういえば夏木は「元日生まれ」だと言っていた。
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