2 はげましねこ

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 最寄のバス停から市内循環バスに乗り、ショッピングセンターにたどり着いたのは十一時半頃だった。バスの車内もショッピングセンターの駐車場も混み合っていて、おしゃれしてきて良かった、と春姫は思う。  センターコートがどこなのか分からず、迷うかと思われたが、バスから降りて一番近い自動ドアから入ってまっすぐ進むと、少し開けた場所に白い「ねこ」がぬっと立っているのが見えた。今日は赤いハチマキをしていないようだ。夏木や押村の姿は見えないが、きっとあそこだ。見つけられて良かった。春姫は安堵しながら近づく。  母子らしきふたりが、春姫の目の前を歩いていた。女性と手を繋いだ幼稚園児くらいの小さな男の子が、不意に「ねこ」を指差して立ち止まった。 「ロボットだ。かわいい」 「そうだね、かわいいね」  女性が男の子に微笑みかけると、「ねこ」がムッとしたように見える表情で言った。 「ねこはねこです。ろぼっとじゃありません」 「へんなのー」  男の子がケタケタ笑う。女性は困ったような顔をして「ねこ」と男の子を交互に見つめている。 「こんにちは。その子、かわいくない? 俺がデザインしたんだよー」  「ねこ」の後ろの方から声がして、スーツ姿の男性が近づいてくる。左手に春姫が昨日もらったチラシを持ち、顔には笑みを貼り付けている。夏木だった。 「かわいいよ。へんだけど」  男の子が胸を張って答える。 「えー。どこが変だと思った?」 「うんとね、じぶんのことを『ねこ』っていうとことね、あとね――」 「あ、ごめんなさい。急いでいますので。ほら、行くよ」  女性が繋いだ手に力を込め、男の子を強引に夏木から引き離した。そんな女性の行動からは「営業に違いないから早く立ち去りたい」という気持ちが透けて見えた。 「分かりました。また機会があればぜひ!」  明るく言いながら夏木が親子の背中を見送る。 「がんばれー」  唐突に「ねこ」が喋り、春姫は小さく吹き出してしまった。  ――夏木さん、ロボットに応援されてる。  春姫の小さな笑い声が聞こえたのか、「ねこ」がまっすぐにこちらに近づいてくる。正対する形になり、目が合うとお辞儀された。
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