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「やなぎさわさん、こんにちは。がんばってください」
表情は全く変わらないのだが、先ほど子どもに話しかけられていた時よりも、心なしか声が柔らかくなったような気がする。春姫は昨日押村から聞いた名前を思い出しながら挨拶を返した。
「ありがとう。おうえんねこさん」
ねこ、と発音する直前に照れ臭くなり、尻すぼみになってしまった。名前を呼んだら喜ばれるかと思ったのに、男の子に「ロボット」と言われた時と同じ声色で「ねこ」が言う。
「ちがいます。ねこは『はげましねこ』です。『おうえんねこ』じゃありません」
「え? 何が違うの?」
春姫が首を傾げると、「ねこ」は一回まばたきしてから再び口を開いた。
「『はげまし』は『めいし』です。いみは、『はげますこと、げきれいすること』。『はげます』のいみは、『げんきづけること、きもちをふるいたたせること』です。つぎに、『おうえん』は『めいし』です。いみは、『ちからをかしてたすけること、こえやうた、はくしゅなどで、ひとのことをげんきづけること』です。それから――」
辞書に載っているようなことをよどみなく話す「ねこ」に圧倒されていると、夏木がこちらを向いて、手を振ってくれた。
「おー、ヤナギサワちゃんじゃん! 来てくれたんだ」
「あ、はい。暇なので」
相槌を打っていないのに一人で喋り続ける「ねこ」が少し怖いと感じていた春姫は、夏木に話しかけられて、胸をなでおろした。
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