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「『ねこ』、昨日と違うんですね」
「ああ、毎日同じじゃ飽きちゃうだろ?」
「見た目は一緒なのに、見分けつくんですか?」
「いや、つかない。というより、外側はみんな一緒。違うのは中身だけだよ。あいつのボディは昨日のと同じ。スイッチで切り替えてるだけ」
夏木が自分の首筋を右手の人差し指でトントンと叩いてみせた。
「スイッチ? やっぱりロボットですよね?」
「うん、そうだよ。チラシにも『AI搭載猫型ロボット』って書いたでしょ?」
「でもさっき『ねこはろぼっとじゃありません』って」
「あー、あれね」
夏木は右手を開いて、手のひらで首の後ろを覆うようにした。ばつが悪そうに笑う。
「社員は誰も教えてないんだけど、あいつが勝手に言い始めたんだ。『ねこ』のプログラムを担当してる押村なんか、初めて聞いた時に開いた口がふさがらなくなってたぜ。一体どこで何を見聞きしてあんなことを言うようになったのかねぇ……」
昔を振り返るように、夏木の目が細められた。
遠くから「ねこは『はげましねこ』です。がんばれー」という声が聞こえてくる。
「どうして、私にこれくれたんですか?」
春姫は鞄から、くしゃくしゃのチラシを取り出して長机に置いた。
「今日はそれを聞くために、ここに来ました」
「『ねこ』と話すと癒されない? ヤナギサワちゃんには癒しが必要なんじゃないかって思って」
夏木は瞬時に爽やかな営業スマイルを貼り付けて言った。なんだかはぐらかされたような気がする。
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