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「俺たち、何歳に見える?」
「めんどくさい絡み方しないの!」
押村が夏木の頭をはたく。春姫の体のこわばりが徐々に解けてきた。
「どちらも三十よ」
「正確には押村が三十歳一ヶ月で、俺はつい昨日三十代デビューしたばっか。俺が元日生まれで、こいつが十一月二十九日生まれだから、俺の方が年下」
「たった一ヶ月、年の差に含まれないでしょ。細かいんだから」
二人の掛け合いを見て、春姫はこらえきれず笑ってしまった。
――三十歳ってすごく大人だと思ってたけど、意外とこんな子どもっぽい言い合いもするんだな。
視線を感じた春姫が前を向くと、押村と夏木がほっとしたような顔でこちらを見ていた。二人が春姫を気遣ってわざとおちゃらけて見せていた可能性があると気づき、ありがたい半面、申し訳ない気分になる。
「さて。契約の話に戻ろう」
切り替えるように、夏木が小さく手を叩いた。押村は「チラシ補充しに来たんだった。契約ありがとうね。また」と言いながらチラシを手に取り、人ごみの中に消えていった。
「初回利用の時間だけここで決めさせてもらうね。最短で明日になるけど、いつがいい?」
「いつでも大丈夫です。どうせずっと予定ないですし」
春姫は自分の声がぶっきらぼうになってしまっているように思えて、ワンピースを握りしめたが、夏木は気にも留めずに笑顔で答える。
「正月休みだもんね」
「じゃなくて。働いてないんです。去年の十一月末に辞めて、ニートです」
「そうなんだ。ちなみになんの仕事してたの?」
「訪問営業です。中学生向けの学力診断テスト売ってました」
少しずつ、夏木の顔が見られなくなっていく。口元、ネクタイ、机の上の手。春姫の視線は下がり続けた。
「営業経験あるならちょうどいいじゃん! うちで働かない? もちろんすぐに正社員は無理だけど、アルバイトとか」
「いやいやいや! 全然結果出せなくて辞めたので、経験があるなんてとても言えません」
「そうかな。俺、春姫ちゃんは才能あると思うんだけど」
夏木の声は明るい。
――この人、私の話聞いてなかったのかな。
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