プロローグ めでたくなんかない

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 首も肩も凝り固まっている。少し動かすだけでとても痛い。ストレッチをした方がいいのは分かっているが、寒いからこたつから出たくない。明日もスマートフォンを一日中眺めて過ごすのだろうと思った。 「新年ですよ。始まりましたね、新年。いやー、一時は年が開けないんじゃないかって噂がありましたけれども、無事開けて良かったですね」 「そんな噂どこにもねえよ!」  お笑い芸人が面白くもなんともない掛け合いをしている。  ばたん。シンクに水滴が落ちる音がワンルームに響いた。春姫はこたつから動かない。  もう一度聞こえる。ばたん。  春姫はため息をついて立ち上がった。こたつから出ると寒さが身に染みる。シンクがある玄関付近のフローリングは冷たく、つま先立ちで歩いた。蛇口をきつく締めて、水滴が落ちてこないようにする。ふと顔を上げると、コンタクトレンズを入れるために置いていた小さい鏡が目に入った。半端に伸びたぼさぼさのセミロングが視界に映る。春姫は鏡越しの自分と目が合わないうちにきびすを返し、再びこたつに潜り込んだ。  テレビからは琴や笛の音が聞こえる。スマートフォンは鳴らない。念のためロックを解除して確認してみるが、メールもSNSも通知はゼロだ。  春姫はスマートフォンをこたつテーブルの向こう端に置くと、横になった。全身をこたつにおさめるために、膝を折り曲げる。カーペットは敷いてあるものの、フローリングの固さが背中を通して伝わってきた。
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