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3 ごはんねこ
一月三日、十一時きっかりに、インターフォンが鳴った。カメラで確認すると、白い「ねこ」が立っていた。昨日までと違うのは、大きな黄色いリュックを背負っている点だった。
ドアを開けると、「ねこ」がお辞儀をしながら入ってくる。つるんとした頭に日光が反射してまぶしかった。
「こんにちは。やなぎさわはるきさんですか」
見た目は昨日までの「ねこ」とまるっきり一緒だが、名前を確認されたということは、別個体なのだろうと春姫は思う。
「はい、そうです」
「ねこは『せつめいねこ』です。ねこのつかいかたをせつめいします」
そう言うと、「ねこ」はリュックからウェットティッシュを取り出して、丁寧に足を拭いてからフローリング部分に乗った。春姫はまだ家に上がることを許可していないので、一瞬面食らったが、ロボットだから仕方ないと思い直した。
「ねこ」が自分の後ろを指差す。回り込んで見てみると、首の後ろに丸い突起物がついていた。手を伸ばして触れようとすると、それを咎めるように「ねこ」がくるりと半回転してこちらに向き直った。
「このぼたんでねこがきりかわります。たとえば、ごはんをつくってほしければ、『ごはんねこ』といいながら、ぼたんをおしてください。そしたら、ねこが『ごはんねこ』になります」
「どんな『ねこ』でもいいの?」
春姫が尋ねると、「ねこ」が頷いた。
「はい。ねこは、たいていのしごとはできます。でも、へんこうはいちにち1かいまでです。つまり、ねこが『ごはんねこ』になったばあい、『せつめいねこ』にもどせるのは24じかんごです」
「難しいな。『ごはんねこ』のまま、使い方の説明はできないってこと?」
「いえ。できます」
春姫が言い終わるより先に「ねこ」が言う。
「できますけどしないのです。『ごはんねこ』はごはんをつくるねこであって、せつめいをするねこではないので」
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