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「ややこしいな。説明はもういいや」
少し話しただけでどっと疲れた。春姫がため息をつくと、「ねこ」が素早いまばたきを二回した。
「さいごに1てんだけ。『ねこ』をつかうまえに、かならずおつたえしなければならないことがあります」
「何?」
うんざりした口調で春姫が答える。「ねこ」は淡々と続けた。
「あなたがねこにしゃべってくれたことについて、ほかのひとにこうがいしません。あなたのひみつはまもられます。ただし、はんざいこういにかかわるばあいや、そうさきょうりょくなど、とくべつなじじょうがあるばあいは、がいぶきかんに、じょうほうをこうかいするばあいがあります。あらかじめ、ごりょうしょうください」
急にマニュアルを読み上げるみたいに、機械的な話し方になったので驚いた。いや、機械なんだけど……。春姫は頭を横に振った。
「せつめいはおわりです。きょうはなんのねこにしますか?」
「ねこ」がじっと春姫を見つめてきた。
「じゃあ、『ごはんねこ』」
春姫が「ねこ」の首の後ろのボタンを押すと、「ねこ」が三秒ほどかけてゆっくりと目を閉じた。二秒後に目を開いた「ねこ」は、背負っていたリュックを下ろして、中からエプロンを取り出した。手際良く自分で身につけていく。首と腰のひもはマジックテープになっており、「ねこ」でも簡単に着用できるようだった。
「はい。ねこは『ごはんねこ』です。ごはんをつくります」
見た目も口調も全く変わらないが、これで「ねこ」が切り替わったらしい。
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