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ケチャップとソースが混ざったような甘酸っぱい匂いが漂ってきて、春姫は目を開けた。いつの間にかこたつでうたた寝していたようだ。
「できましたよ」
「ねこ」の声に導かれ、キッチンスペースに顔を出すと、ワークトップに料理が並べられていた。まず目に入ってきたのはメインのハンバーグだ。先ほど感じた匂いは、ハンバーグにかかっているデミグラスソースのものだろう。付け合わせに、ほうれん草とコーンのバター炒めが乗っている。いつか使おうと思って冷凍庫に入れていたものだ。スープカップには、コンソメスープが入っている。こちらも冷凍のミックスベジタブルと、ベーコンが浮いている。お茶碗には炊き立てのご飯が盛り付けられ、ほかほかと湯気が上がっていた。
「わあ、すごい。お店みたい」
春姫が拍手すると、「ねこ」はわずかに姿勢を正した。
「ねこはごはんをつくるのがおしごとなので」
春姫には、得意げに胸を張っているように見えた。それから「ねこ」が何も言わなくなり、その場に立ったまま動かないので、春姫はためらいがちに尋ねた。
「えーと、運んではくれないの?」
「はい。『ごはんねこ』はごはんをつくるねこなので。『はいぜんねこ』ではないので」
「配膳専門のロボットって、店では役に立つかもしれないけど、家庭では需要ないよ」
「ねこはろぼっとではありません」
「ねこ」が早口で答えた。春姫が頭を抱える。
「分かった分かった……。自分で運ぶよ」
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