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通い慣れたコンビニに行くと、うっすら雪が積もる駐車場に白くて大きな物体があった。昨日弁当を買いに来た時にはなかったはずだ。しかも変な動きをしながら、言葉を発している。
「ふれー、ふれー、みなさん! がんばれがんばれみなさん、わー!」
音程がほとんど変わらない平坦な声だが、その言葉と姿は応援団のようだった。
春姫がコンビニの駐車場の中ほどで立ち止まると、それが近づいてきた。
つるんとした白い猫型のロボットだった。人間のように後ろ足で立ち上がり、頭には真っ赤なハチマキを巻いている。二頭身だ。顔は幼児向けのキャラクターのように中央に寄っていて、目は黒い円で、鼻は逆三角形、口はへの字だった。人間で言えば頬に当たる部分にはカタカナのミのようなものが描いてあった。おそらくひげを表しているのだろう。身長は春姫と同じくらいだから、約一六〇センチメートルか。その大きさに圧倒される。
「こんにちは」
ロボットが口を動かして、お辞儀した。
「……こんにちは」
反射的に返してしまう。
「おなまえはなんですか?」
ロボットが無表情のまま尋ねてきた。
「私の?」
「はい。おなまえをおしえてください」
ロボットとのふれあいの体験ができるのかな、正月だから何かイベントなのかも、と思い、何気なく答えてしまう。
「柳沢です」
「わかりました。やります」
何をやるのだろうと思う間もなく、ロボットの声量が大きくなった。
「ふれーっ。ふれーっ。やーなーぎーさーわー! ふれっふれっやなぎさわ、がんばれがんばれやなぎさわ、わー!」
ロボットの応援は、閑静な住宅街によく響いた。春姫は顔に血が上るのを感じた。体が熱いが、マフラーに顔をうずめる。誰にも見られたくなかった。なるべく早く店内に逃げ込んで、こいつとは無関係であることを示したい。足を前に進めると、男性の声が背後から聞こえた。
「え、行っちゃうの? 気になってたんじゃないの?」
知らない声だった。一人分の足音が近づいてくる。きっと誰かと電話しているのだろうと思い、無視をしてコンビニに入ろうとする。
「ねえ、ヤナギサワさん」
同じ声が話しかけてくる。春姫は思わず立ち止まった。目だけを動かすと、自分の影のすぐ後ろから、春姫よりも少し長い影がまっすぐに伸びているのが見えた。
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