10 なぐさめねこ

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「じゃあ俺、店の人に挨拶してくるから、それ積んだら『ねこ』と待ってて」 「分かりました」  パイプ椅子をトランクに積んだ春姫は、「ねこ」と一緒に後部座席に乗り込んだ。いつもは助手席に座るのだが、なんとなく「ねこ」の隣にいたい気分だったのだ。  ため息をついた。息抜きに少しゲームでもしようと鞄からスマートフォンを出そうとした時、無機質な声が隣から聞こえてきた。 「やなぎさわさん、きょうもおつかれのごようすですね。いきていればそんなひもございます」  そういえば今日は「なぐさめねこ」だった。慰めるには相手が必要だが、お客様に話しかけられなかったため、「ねこ」はほとんど喋っていなかったのだ。 「おきをおとされませんよう。たくさんおいしいものをめしあがって、たくさんねて、えいきをやしなってください。あすはきっといいひになることでしょう」  いつもよりも尊敬語が多めだ。丁寧語だけで慰められては、馴れ馴れしい感じがして嫌がる人がいるのかもしれない。でも春姫は、その丁寧すぎる感じがかえって馬鹿にされている感じがした。 「タメ口で喋って」  前を向いたまま言うと、「ねこ」が「わかった、おっけー」と答えた。驚いて勢いよく「ねこ」をの方を向いてしまった。首を素早く動かしてしまったせいで、ポキっと鳴った。
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