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「やなぎさわちゃんさ、きょうめっちゃがんばってたよ。でもけいやくとれなくて、ざんねんだったね。どんまい!」
今度は友達みたいな距離感だ。軽すぎる。
「ちょうどいいところはないの!?」
春姫が声を荒らげてもお構いなしで、
「おこ? かわいいかおがだいなしだよー。とりま、まっくのぽてとでもたべいく?」
相変わらず無機質な声で、フィクションの中の女子高生が言いそうなセリフを並べる。
春姫が頭を抱えた時、今までとは雰囲気の違う言葉を「ねこ」が発した。
「しごとでおったきずは、しごとでしかいやせないからねー。がんばりなよー」
押村さんだ、と思った。春姫がシロネコで働くことを躊躇していた時にかけられた言葉。「ねこ」はロボットだが、それをプログラミングしているのは「人」なのだ。「ねこ」の向こうに人間の存在を感じた。
春姫の目から涙がこぼれ落ちた。一滴出てしまったら、もう止めることはできなかった。
「あれ? 今日は後ろ?」
運転席に乗り込んだ夏木は、バックミラーごしに春姫を見た。一瞬たじろいだように見えたが、特に何も聞かずに車を発進させた。
「おいしいものたべてげんきだそ? けーきたべよ? さいきんのこんびにすいーつ、くおりてぃたかくておいしいよね。ま、ねこは食べたことないんだけどね、わら」
静かな車内に「ねこ」の声だけが響いた。
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