11 さぽーとねこ

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「ご夫婦ですか?」 「うん」 「今、キャンペーン中でして、AIのお手伝いロボットをお安く試せるチャンスとなっております」 「ねこはろぼっとではありません」  反射的に言葉が返ってきたが、無視した。 「よろしければお話だけでもいかがですか?」 「ふうん。まあ暇だしいいよ」  男性の方が勝手にパイプ椅子にどっかり座った。この場に残ろうか買い物に行こうか迷っていそうな女性に声をかける。 「お時間ありましたら、ぜひお二人でお話聞いていただきたいです」  夫婦の場合、どちらか一方が財布の紐を握っている場合があるから、即決してもらうためには一緒にいてもらった方がいい。夏木からのアドバイスだった。 「はあ、そうですか」  感情のこもらない声で言った女性も、おとなしくパイプ椅子に腰を下ろしてくれた。 「お二人は、家事が楽になったらいいのになと思うことはありませんか?」  春姫が質問すると、男性が鼻で笑った。 「苦しい方がいいって言うわけないだろ。そりゃ楽な方がいいに決まってる」  春姫を馬鹿にするような言い方だったが、とりあえず肯定の返事はもらえた。人間というものは、何度も「イエス」と答えていくうちに、次の質問も「イエス」と答えやすくなるらしい。確実に「イエス」と答えてもらえる質問を積み重ねていくことで、最後の契約の時にも「イエス」と言ってもらいやすくするという交渉術がある。押村から教えてもらった技術だ。春姫は気合を入れるために、いつもよりもお腹に力を入れて声を出した。
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