11 さぽーとねこ

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「妻を笑わせるとは大したもんだ。面白いコントを見せてくれてありがとう。前向きに検討するから、もっと話を聞かせてくれないか?」  男性は相変わらず椅子に深く腰掛けたままだが、心なしか表情が柔らかくなった気がする。 「ありがとうございます!」  当初の目論見とは違ったものの、確実に空気が変わった。まさか今のは意図的で、春姫をサポートしてくれたのだろうか。そこまでの高度な人工知能が備わっているのだろうか。春姫が「ねこ」をまじまじと見つめるが、いつも通りの無表情からは、真相は分からなかった。  ――まずは目の前のお客様に集中だ。  春姫は椅子に腰を下ろし、長机の上の黒いクリップボードを開いた。 「まずは、こちらをご覧ください。『ねこ』の活用の実例です。『ごはんねこ』『かたづけねこ』など、家事を手伝ってもらうという使い方が一番多いです。『さぽーとねこ』のような使われ方はまれですので、さっきの実例はあまり参考にならなかったかもしれません」  男性と女性が同じタイミングで笑った。いける。春姫は確信した。
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