11 さぽーとねこ

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 上司と似た容姿のお客様から契約を取れたことで調子づいた春姫は、その後も契約数を伸ばしていった。 「春姫ちゃんって即戦力だよね。春姫ちゃんと組む時、負けないようにすげー頑張らないとって気合い入れなおすもん」  と夏木に言われたことがある。  また、ある日、契約数が夏木よりも多かった時、押村と夏木が社内で喋っていたのを耳にしてしまった。 「春姫ちゃんすごい成長。やっぱり努力はセンスに勝つのね」 「誰のこと言ってんだ?」 「センスだけで生きてるのはあんた以外にいないでしょ?」  嬉しかった。今までの頑張りが認められた気がして。  ほっとしたら両親のことを思い出した。仕事を辞めたことも、再就職したことも、全然言えていない。向こうから連絡が来ても、「仕事が忙しいから」とろくに返していなかった。会社の役に立てていない自分が恥ずかしくて、両親に顔向できないと思ったからだ。  本当は前の会社を辞めたタイミングで伝えた方が良かったのだが、会社から逃げたという後ろめたさから言えなかった。シロネコーポレーションでアルバイトを始めた時、契約社員になった時、再就職して元気にやっていることを伝えようと思ったのだが、それを言うためには前職の話をしなければならない。いずれは言わなければと思っているうちに、十二月の最終出勤日になってしまった。
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