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プロローグ めでたくなんかない
年が明けると何がめでたいのだろう。
六畳のワンルームの真ん中に置いた小さなこたつでぼんやりとテレビを眺めていると、カウントダウンが始まる。
ぶるり、とひとつ震えた春姫が、シバリングというのだっけと考えながら、こたつ布団を引き寄せて顔をうずめた。前髪は、秋に目の上に切り揃えたはずなのに、いつの間にか伸びていて、俯くと落ちてきて視界をさえぎった。テレビを見たいわけではなかったが、目に刺さるのが嫌で、おざなりに左手で耳にかけた。
テレビの中で芸能人たちが、数字を順調に減らしていく。
五、四、三、二、一、〇。
「あけましておめでとうございまーす!」
弾けるような乾いた音がして、スタジオに金テープが舞った。袴や着物を着たタレント、アナウンサー、芸人、アイドルたちが、一様に笑顔で立っている。
春姫は思う。何がめでたいのだろう。
春姫の目の前、こたつテーブルの上にあるのは、コンビニで買ったのり弁当の空容器と、電池の残りが二十四パーセントのスマートフォンだけだ。充電器は、窓際に年中敷きっぱなしになっている布団の横の壁のコンセントに刺さっている。わずか三歩ほどの距離だが、そこまで取りに行くのすら面倒くさい。
春姫は自分の一日の行動を振り返ってみた。昼一時ごろ、布団から起きて、賞味期限が切れた食パンをトーストして食べた。それから、こたつの中でスマートフォンを開いて、アプリでゲームをしたり、マンガを読んだり、動画を観たりしているうちにお腹がすいたな、と思ったら日が暮れていた。コンビニに食べ物を買いに行き、部屋に戻ってきて、何か音が欲しくてテレビをつけて、気がついたらカウントダウンが終わっていた。
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