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人生の集運点
『という訳で、最新の“運勢研究”によると、運勢の大きな潮目である集運点が、人生には3回あるということです』
「ホントかなぁ」
佐野穂南は、弁当箱のブロッコリーにフォークを突き立てたまま、壁に備え付けられた大型画面の中で得意気に語る運勢論者に懐疑的な眼差しを向けた。
同期の女友達とワイドショーをオカズにテーブルを囲む、いつものランチタイム。ここは職場の休憩室――お茶を飲んだり、食事したり、仮眠を取ったり、思い思いに使える息抜きの場だ。
「あたし、集運点ってヤツ、少なくとも2回は経験しているよ」
左隣の穂南とは対照的に、右隣の吉田杏華はあっさり肯定した。
「えっ、ホント?」
「うん。高校入試のときと、うちの会社に入ってしばらくしてから」
「それって、分かるもの?」
自信満々の杏華を横目で見ながら、厚焼き卵を口に放り込む。
「あたしさ、高校入試の日に受験票忘れちゃったのね。受験会場で自分の席に着いて、忘れたことに気づいて、『あー、終わったー』と思ったの」
冷静でしっかり者の杏華にも、若かりし頃にはそんなうっかりエピソードがあったのか。私と穂南は、驚きつつもウンウンと先を促す。
「そしたら……係員が来て『会場に爆破予告があった』とかで、全員速やかに避難よ」
「「えーっ」」
「結局、爆破予告はイタズラだったんだけど、入試は延期になって、助かったの」
「そんなことあるんだねぇ」
「あの幸運がなければ、人生変わってたわ」
杏華は涼しい顔でおにぎりを食む。私達は大いに納得して頷き合った。
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