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「あんた達は? そういう体験、ないの?」
「中2の夏休みにねぇ、台風で飛行機が欠航して、沖縄旅行が中止になったことがあるんだけどぉ……」
私がうーんと首を捻っていたら、先に穂南が口を開いた。
「それは残念だったね」
「うーん。でも、そんなに残念じゃなかったんだよねぇ。むしろ、空港で一晩待機とか嫌じゃない? スパッと取り止めてくれて良かったっていうかさぁ」
「あはは、穂南らしー」
「ホントー」
のんびり屋で、周りに流されやすい性格の彼女らしい感想に、私と杏華は遠慮なく笑う。
「でもね、夜になったら、こっちでも停電が起きてさぁ。家にいたお蔭で、冷蔵庫の中身、腐らせずに済んだわってママが喜んでたの」
穂南は、ポテサラをつつきつつ、困惑顔で小首を傾げる。
「え、それじゃ、沖縄に行けなくなって、幸運だったってこと?」
「うーん。結局プラマイゼロって感じで、不運だったのか幸運だったのか分からないんだよねぇ」
私のツッコミ受け、穂南は首を捻る。
「そうかな。1個1個分けてみたら、やっぱり不運と幸運だったんじゃない? 穂南がどう感じたかはともかく、客観的に見れば」
至極真顔で、杏華は1つ2つと指を折る。
「あー、なるほどね」
「それじゃ、あのとき集運点が2つ起きたってことぉ?」
「いやいや、集運点って、もっとこう、人生に関わるような重要な出来事なんでしょ?」
「じゃ、違うねぇ。飛行機の欠航なんて、よくあるもんねぇ」
「例えば――」
杏華は、私と穂南の会話の切れ目に的確に言葉を挟む。私達の視線を受けると、杏華はステンレスボトルのお茶を一口飲んだ。
「搭乗予定の飛行機が墜落して、乗らなかったお蔭で助かった、とか、そういうのだと思うわ」
「うん、それは間違いなく集運点だね」
「あ、昼休み、あと10分だわ。御手洗行かなきゃ」
「あたしもー」
お弁当箱を手早く片付けると、私達は連れ立って御手洗に向かった。個室は空いていたものの、洗面台の鏡の前には念入りに化粧直しをするお姉様達が占拠していて、私達はその片隅で慎ましやかに歯磨きをさせてもらった。
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