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香川さんを待つ間、どういった要件なのかをいやでも考えてしまう。
今までプライベートの話はしたことないし、天気や気候の話、調子が良ければお仕事の話くらいはしたことがあるけれど、ただそれだけの関係だ。
『じゃあそのくらいの時間にまた来ます』
「……」
思い返すのはあの爽やかな笑顔。あれ、『また来ます』だったっけ?『また会いにきます』だった?……なんて、頭の中の香川さんは脚色キラキラ増し増しだ。
もし、連絡先聞かれたらどうしよう。デートのお誘いだったらどうしよう。
普段は何も感じないのに、今だけ血液が身体中をぐるぐる駆け巡っているのがリアルに伝わる。
私の意思に反して膨らんでいく妄想。夕香ちゃんには「そんなんじゃない」って全力否定したけれど、しっかり期待してしまっている。
15時7分。タイムリミットまであと3分。
「れーん、そろそろ行ったほうがいいんじゃないのー?」
「ううう、もうちょっと!」
諦め悪くカフェスペースに居座る私はスマホの時間表記との睨めっこをやめてタスクアプリを開く。今日やらなければいけないものを昨日の夜に書き出したものだ。
部屋の飾り付けは合間にするとして、料理は下拵え済ませてあるし、嵐のお迎えは自転車使えばギリギリ間に合うか……?
なんとかあと数分を捻出できないかとスケジュールを見直していると、タスクが並んでいたスマホの画面が黒く染まった。
画面下部には受話器のマーク。頭の中が香川さんでいっぱいだったせいで一瞬彼からの電話?!などと現実的ではない発想が浮かんだが、画面に表示されたは『おひさま保育園』の文字。
それを見た瞬間、たったの今までフワフワしていた感情が一気に地に着いて、慌てて受電ボタンをタップする。
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