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「はい、水無月です」
『あ、よかった。繋がって』
その声は嵐のクラスの担任・松崎先生のもの。お迎えの時間を待たずに電話が来るのは緊急の要件であることが多いため何があったのだろうと恐る恐る「どうかしましたか?」と尋ねれば……
『実は、嵐くんお熱出ちゃったみたいで』
「え!」
予想どおりのお知らせ。
「何度くらいですか?」
『微熱なのでそこまで気にしなくても大丈夫だとは思うんですけど、今日は早めにお迎え来てもらった方がいいかなと思って』
「は、はい!すぐ行きます!」
『午前中までは「今日は誕生日会するんだ〜」ってご機嫌だったんですけど……楽しみすぎてお熱出ちゃったんですかね?』
「ご迷惑おかけします……」
『いえいえ、気をつけていらしてくださいね』
松崎先生の優しい声にやや気持ちを落ち着かせつつ、電話を切るより早く、テーブルに乗せていたバッグを鷲掴んで店の出口へ向かった。
「夕香ちゃん、嵐が熱出したっていうから私もう行くね!」
「えっ、うそ!こんな日に?!」
「うん、早く行ってあげなきゃ……」
「そうだね、気をつけてね!」
心配そうな夕香ちゃんに見送られて店を出た。
保育園までの道のりを駆けるなか、先ほどまでの浮かれた自分を呪った。
嵐が熱で苦しんでいる時に……私は浮かれて、嵐よりも他の人を優先して……なんてひどい姉なんだ。
やっぱり私には、恋愛の浮かれたドキドキなんていらない。
嵐の成長を見守って、嵐の幸せが私の幸せ。嵐の幸せを守れるのは私しかいないんだから……私が、頑張らなきゃいけないんだ。
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