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「嵐、大丈夫?」
「ん、大丈夫ー、誕生日するー」
「無理だよ、ちゃんと寝てなって」
「うう」
嵐を家に連れ帰って布団に寝かせたが、熱が出ている以外は比較的元気なようで、数週間前から楽しみにしてた誕生日会を諦めきれず散々駄々をこねている。
「また今度、夕香ちゃんも一緒に誕生日会しよう?その時にはお母さんも帰って来れるかもしれないし」
「やぁだ〜今日がいい〜」
「わがまま言わないの。元気になってから!」
「ぼくもう元気だよー?」
真っ赤な顔で真っ赤な嘘。「嘘を吐く子は舌抜かれるよ」と鼻を摘んでピッと引っ張れば、怯えたように瞳を収縮させてようやく静かに目を閉じた。
こんな日に可哀想とは思うんだ。本当にずっと楽しみにしていたから。
冷蔵庫の中には昨日から仕込んだご馳走が並んでいるし、押入れには部屋を飾りつける道具も揃ってる。
バタバタしていて持ち帰るのを忘れていたが、カドゥーには嵐のためだけに作ったケーキだってある。
手を伸ばせば届く距離に欲しいものがあるのに触れてはいけない、だなんて……きっと、手が届かないよりも辛いこと。
冷蔵庫の中のご飯は明日食べるか、痛みそうなものは冷凍しておこうと頭の中で段取りしつつ、嵐のおかゆを作るためにキッチンに向かう。
本当は白がゆが良いのだろうが、味がついていないと口に入れてくれないのでお出汁を入れて卵を溶いた。
沸々ととろみが出てきたら味見をして、小ネギを散らす。どのくらい食べ切れるかわかるないので小ぶりのお椀にそれを入れて、残りはあとで私の晩ごはんにでもしよう。
「嵐〜おかゆできたよ?お姉ちゃんアーンしてあげるから食べられるだけ食べな?」
「ん……」
「……嵐?」
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