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先ほどまでと様子が違うのを感じ取り、慌ててお粥の乗ったお盆を床に置いて嵐のおでこに手を乗せる。
明らかに先ほどよりも熱が上がっている。呼吸も苦しそうだし、目もうつろ。
「嵐、きつい?」
「うん、……寒い」
「そっか。お熱測ろうね」
体温計で熱を測れば、表示された数字は38.9℃。思っていた以上の高熱に目を見張る。
時刻は夜8時。この時間では救急病院に行くしかない。
車がないのでタクシー会社に電話をしたが、繁忙期でタクシーが掴まらないと断られてしまった。
夕香ちゃんに連絡をしたかったが、明日、ウエディングケーキの発注を受けており、その準備のために誕生日会も断られたばかりだ。今連絡したらきっと迷惑がかかる。
私が、……私がなんとかしなきゃ。
「嵐、病院行こうか。歩ける?」
「んー……」
抱き上げた嵐の体が驚くほど熱い。何か悪い病気とかだったらどうしよう、と不安な気持ちを抱えながらも、嵐にこの気持ちが伝染しないように、発する声は努めて明るいもの。
「嵐、すぐ着くからね?寝てていいよ」
「ん」
玄関を出れば、漆黒の闇夜にハラハラと雨粒が光っていた。こんな時に最悪だ……なんて舌を打ちたい衝動に駆られながら、傘立てからこの家で一番大きな傘を抜き取る。
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