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肩と首の間に傘の柄を挟み、嵐をおんぶして古いアパートの階段を降りる。
パラパラと不安を煽る雨音のせいで増していく背中の重み。雨に濡れた鉄製の階段を絶対に踏み外さないように一歩一歩踏み締める。
私がもっと大人だったら、私が男だったら、お母さんとお父さんが……嵐のそばにいてくれたら。
悲観的になっている場合ではないと分かっているのにどうしても考えてしまう。
普段は姉ひとりでも嵐を立派に育ててみせるって息巻いているのに、いざという時、無力な自分が恨めしかった。
嵐を“可哀想な子”にだけはさせたくない。私がしっかりしないと、辛い思いをするのは嵐なんだ。
「嵐、濡れてない?」
「ん、大丈夫……」
体を揺らして傘を後ろに傾けた。嵐が濡れないようにしたかっただけなのに、バランスを崩した傘が後方へ飛んでいく。
一度嵐を地面に下ろし、すぐに傘を拾って嵐に被せたが、その代わりに私の背中は雨でびしょびしょに濡れていく。
このまま背負えば嵐が濡れるし、このまま歩いて病院に行くなんて私が良くても嵐の負担が大きすぎる。
「ごめんね、嵐……ごめん、」
「ねぇ、ちゃん……」
……ああ、もういやだ。何もうまくいかない。どうしよう、泣きたい。やっぱり一人じゃ無理なんだ。
ぼやけ始める視界は雨のせいじゃない。私の負の感情が溢れた結果。
お願い、もう誰か……助けて。
そう願った瞬間、願いが聞き入れられたみたいに天から降り注ぐ雨が止んだ。
私の傘は嵐の上。さらにその上にかざされたビニール傘。
「……大丈夫?」
「っ、」
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