01.癒しのお兄さん

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「はい、いつもありがとうございます!」 「あ、重たいんで中まで持って行きますよ!」 「いいんですか?ありがとうございます」 屈強な肉体。優しく爽やかな笑顔。ふわりと香るシトラスの香り。 ブルーの制服がよく似合うこの人は沢田急便の香川太陽(かがわたいよう)さん。年齢は不明。だってプライベートな話なんてしたことがないから。 「暑くなりましたね」 「ドライバーさん、熱中症になっちゃいそうですね」 「いやぁ本当そうなんですよ」 いつも私のバイト先であるケーキ屋【cadeau de bonheur(カドゥー・デ・ボヌール)】にお届け物をしてくれる宅急便のお兄さんで、大量の小麦粉が入った段ボールを厨房に運んでもらうまでのこのわずかな間だけ会話を交わすことができる。 この時間が私の“癒し”なのだ。 「ふわー、カドゥーさんの店内涼しくて天国!」と涼む彼を見上げては心の中で「ずっと涼んでください」などと声をかける。 小麦粉、果物、チョコレート、生クリーム。トラックから行ったり来たりを繰り返す彼に見惚れること数分。 「今日のお届けものは以上ですね!サインお願いします」 「はい、ご苦労様です」 伝票とボールペンを渡され、サインをして返す。本当はカウンター裏にペンも印鑑もあるのだけれど、“推し”がせっかくペンを貸してくれるのだ。使わない手はない。 「毎度ありがとうございます!」 ニカッと笑うと目尻に皺が寄る。たくさん笑ってきた人の顔だ。それを見るだけで自分の幸福度も上がる気がするんだから、コスパがいい。
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