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「あ、香川さん。これ食べて行ってください」
「え!いいんですか?」
彼の作業が終わるのを待って冷凍ショーケースから棒アイスを取り出すと、クリッとした二重瞼の目が光る。
子どものように無邪気な表情にキュンと胸を高鳴らしつつ、「はい、毎度カタチの悪い廃棄品で申し訳ないですけど」とアイスを手渡した。
「ありがとうございます!これご褒美に配達頑張ってるんで嬉しいです!」
「よ、よかったです!」
「あ、でもこんなこと言ったら催促してるみたい……?」
「次も用意しておきます!!」
「え!違う違う、気を使わなくて大丈夫ですからね!」
顔の前で手をブンブン振って慌てる香川さんも素敵。人の良さがお顔に滲み出てる……。
「じゃ、アイスごちそうさまでした!失礼します!」
「はい、お疲れ様です」
カフェスペースに向かって数秒、3口でアイスを平らげた彼は颯爽と店を後にする。
彼の爽やかさに忘れそうになるが、宅配ドライバーは重労働だと聞く。そりゃあ荷物は重いし、配達先は多いし、平日はお留守のお家も多いだろうし。
そんな中でもいつでも爽やかな香川さんはすごい。どんなに忙しくてもいつも笑顔で……本当に太陽みたいな人。
癒しに加えて「私も頑張らなきゃ」とプラスの影響を与えてくれるから、“推し”効果抜群。やっぱりコスパが抜群なのだ。
ふと顔を上げて掛け時計を見れば、時刻は16時をすぎていた。
「恋〜、上がっていいよ」
「うん!ありがとう夕香ちゃん」
「気をつけていってらっしゃーい」
このお店のオーナーで、私の叔母の水無月夕香に見送られてあと片付けを始める。
これからお迎え行って、買い物して、家帰ってからご飯と洗濯。あとは大学の課題もやらなきゃいけないし……
さっきまでのフワフワした気持ちが嘘みたいに頭がクリア。今日就寝するまでのTodoリストを組み立て中だ。
私の日々は忙しい。だから、恋愛はいらない。“推し”として見つめているだけがコスパいい。
だって、“癒し”をくれても、イケメンが私の人生のタスクをこなしてくれるわけではないからね。
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