01.癒しのお兄さん

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* 「(らん)〜!帰るよー」 「ねーちゃん!」 16時半。保育園で私の迎えを待っていた愛しの弟、水無月嵐が満面の笑みで駆けてくる。 「おかえり、嵐〜!今日はいい子にしてた?」 「ん、いい子してた」 反射の如きスピードで返ってきた言葉に本当かよ、と思いながら担当の先生に視線を向けると、ふふふと笑みを浮かべながらビニール袋を手渡された。 「嵐くん。とっても元気に遊んでましたよ?」 「そうですか、それはよかっ……げ!」 手渡されたビニール袋の中を覗いて驚愕。白かったはずの体操着が見る影もなく真っ茶色。 「……どろんこ遊びに精が出まして。一度お風呂に入れました」 「す、すみません」 「いえ、元気が一番ですから」 ニコッと笑う先生に苦笑いを返しつつ、心の中では「この泥汚れ……洗濯で落ちる?!」と涙目。 「ねーちゃん、ぼく今日のごはんからあげがいいー」 「あー、はいはい。帰りお買い物行くから材料買おうね」 「わーい!」 でもまあ、この邪気のない瞳を見れば、「たしかに元気が一番か」と納得できるから、スーパーで強力な洗剤を買って心を落ち着かせるとしよう。 「パワフルマンチョコ買ってきていい〜?!」 「嵐、走らないよ!一人でどっか行かないで!また迷子になるからね?」 「はーい」 特売日の火曜日にはスーパーへ寄って、1週間分の食糧をまとめ買いする。帰り道は、右手にパンパンの特大エコバッグ、左手には弟の柔らかい手を握る。 家に帰り着いたら購入した食材を仕分け、冷凍用に小分けにしたお肉をラップに包み、簡単に晩御飯の下拵えをしつつ、どろんこになった嵐の体操着を洗剤につけおきする。 このあとは洗濯機を回しつつ、嵐をお風呂に入れて、嵐が寝静まってから大学の課題を済ませて……。
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