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「嵐〜!帰るよー」
「ねーちゃん!」
16時半。保育園で私の迎えを待っていた愛しの弟、水無月嵐が満面の笑みで駆けてくる。
「おかえり、嵐〜!今日はいい子にしてた?」
「ん、いい子してた」
反射の如きスピードで返ってきた言葉に本当かよ、と思いながら担当の先生に視線を向けると、ふふふと笑みを浮かべながらビニール袋を手渡された。
「嵐くん。とっても元気に遊んでましたよ?」
「そうですか、それはよかっ……げ!」
手渡されたビニール袋の中を覗いて驚愕。白かったはずの体操着が見る影もなく真っ茶色。
「……どろんこ遊びに精が出まして。一度お風呂に入れました」
「す、すみません」
「いえ、元気が一番ですから」
ニコッと笑う先生に苦笑いを返しつつ、心の中では「この泥汚れ……洗濯で落ちる?!」と涙目。
「ねーちゃん、ぼく今日のごはんからあげがいいー」
「あー、はいはい。帰りお買い物行くから材料買おうね」
「わーい!」
でもまあ、この邪気のない瞳を見れば、「たしかに元気が一番か」と納得できるから、スーパーで強力な洗剤を買って心を落ち着かせるとしよう。
「パワフルマンチョコ買ってきていい〜?!」
「嵐、走らないよ!一人でどっか行かないで!また迷子になるからね?」
「はーい」
特売日の火曜日にはスーパーへ寄って、1週間分の食糧をまとめ買いする。帰り道は、右手にパンパンの特大エコバッグ、左手には弟の柔らかい手を握る。
家に帰り着いたら購入した食材を仕分け、冷凍用に小分けにしたお肉をラップに包み、簡単に晩御飯の下拵えをしつつ、どろんこになった嵐の体操着を洗剤につけおきする。
このあとは洗濯機を回しつつ、嵐をお風呂に入れて、嵐が寝静まってから大学の課題を済ませて……。
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