01.癒しのお兄さん

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私、水無月恋(みなづきれん)の毎日は忙しい。 19歳。A大学の心理学科に通う大学2年生。大学生は【人生の夏休み】と言う人もいるが、私の場合は毎日が戦争だ。 幼少期に両親が離婚。私は母親に引き取られ、母一人、子一人で生きてきた。しかし、8年前のある日、「紹介したい人がいる」と言って母が再婚相手を連れてきた。 人当たりが良く優しい人だったので、元父の暴力に苦しんでいた母がようやく幸せになれるのだと素直に嬉しかったのをよく覚えている。 そして、再婚から3年後。嵐が産まれた。 その時、高校一年生だった私は初めてできた弟が可愛くて可愛くて。この子を守るためなら何でもできる、なんて、母親のようなことを本気で思っていた。 育休を早々に切り上げて仕事復帰した母に代わり、おむつも変えたし、ミルクも作った。 お馬さんと言われれば迷わず床に膝をつき、おやつが食べたいと言われればレシピを見ながらパンケーキを作る。 そんな風に嵐に尽くすのには、自分の幼少期の記憶が強く影響していた。 私の幼少期は両親がケンカばかりでいい思い出がない。共働きで忙しい両親のケンカの種になりたくなくて必死にいい子を演じていた。 本当は寂しくても寂しいなんて言わないし、辛くて悲しい時も誰にも言わず一人で耐えてきた。 改めて思い返してみても……明らかに子どもらしくない子どもだったと思う。 だから、嵐には私と同じ想いは絶対にさせたくないと…… 仕事人間であまり家に帰ってこない母に代わって、私が嵐の母親のような姉になろうって決めたんだ。
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