01.癒しのお兄さん

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「ふふ、なぁに?彼氏いらないんじゃなかったの?」 「そ、そんなんじゃないし!」 ニマニマ顔でからかってくる夕香ちゃんから目を逸らし、受け取ったばかりの段ボールをカッターで開封する。 夕香ちゃんも仕事に戻ってくれないか、という思いは虚しく、未だレジカウンターに居座る彼女はわざわざ私の顔を覗き込んでくる。 「え〜、太陽くんと喋る時、声ワンオクターブ高くなってるの気づいてないの?」 「えっ?!うそ!」 そんな指摘をスルーできるほど私の顔は鉄仮面ではなく、すでに赤いであろう顔を両手で押さえて「不自然?香川さんに変に思われてたりするかな?」と情けない声を出せば、 「まあ、そんなあからさまではないけど……長年恋を見てる私の目は誤魔化せないよ?そうやって今やらなくていい仕事やって心落ち着かせてんのもぜーんぶお見通し」 「……」 さすが、仕事で忙しい母に代わって小さい頃から面倒を見てくれた叔母だ。この人に隠し事はできない、と改めて実感。 「香川さんは……そんな、好きとかいう烏滸がましい感情じゃなくて。憧れっていうか、癒しっていうか……“推し”!そう、推しなの!」 「え〜でも、退勤時間聞かれるなんてあっちは気があるんじゃない?」 「っ、」 「もし推しに好かれたら……どうする?」 「……」 そう問われ、みるみる赤くなる顔を制御できなかった。 「あれあれ〜?」とまだからかい口調の夕香ちゃんを「もう!仕事して!」と威嚇すれば、「あーこわこわ」なんてまだふざけながら厨房に戻っていく。 香川さんが私に気があるとか……絶対ない!万が一、いや、億が一そんなことがあり得たとしても、私には嵐がいるんだ。どうこうなるわけもない。 ないない、絶対ない! 頭の中で全力否定すればするほど、反比例に意識してしまうのは人間のサガ。 バイトが終わったら香川さんが私に会いにくる。何の目的かは知らないが、お店に用事ではなく、私に用事ってだけで心臓の鼓動が抑えられなかった。 (……もう少しちゃんと化粧してくればよかった) そんな感情を持ったのは、多分、中学生のとき以来かも。
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