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15時。バイトの退勤時間になった。
「恋、帰っていいよ。嵐の誕生日会の準備あるんでしょ?」
「え?……ああ、うん」
香川さんが15時ごろお店に来ると話していたことをすっかり忘れている夕香ちゃん。当事者じゃないので無理もない。
いつもなら嵐のために真っ先に退勤するところだが……、香川さんと約束した以上、このまま帰るわけにもいかないだろう。
帰り支度を済ませたにも関わらず、店内を落ち着きなくうろつく私に午前中のやりとりを思い出したらしい夕香ちゃんは「あー、そっか。太陽くん来るんだったね」とやっぱりニヤニヤ。
「どうするー?デートでも誘われたら」
「だから、そんなんじゃないってば!揶揄わないで!」
「ふふふ、だって姪っ子がウブで可愛いんだもん」
アラフォー女性が“だもん”とか可愛こぶるのやめた方がいいと思う。せっかく美人なんだからもうちょっと大人になってほしいものだ。
抗議の意味を込めて唇を尖らせたのだが、丁度のタイミングで掛け時計に目をやった夕香ちゃんには見てもらえなかった。
「でも、急がなきゃ嵐のお迎えに間に合わなくなるんじゃない?」
「んー、そうなんだけど……最悪、嵐がお風呂入ってる間に部屋の飾り付けするから大丈夫!」
「そう?私から用事があって帰ったって伝えてもいいけど……」
「もう少し待っても来なそうだったらお願い。カフェスペースで待っててもいい?」
「もちろん」
スマホで時間を確認してあと十分くらい待とうと決めた。香川さんも忙しいだろうし、他の配達で遅れているのだろう。
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