10人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
悲しみは流れない
「……………」
辛い――。
いつもいるはずの人間が突然消えて、突然もう会えないと告げられて信じることができるはずがない。
青空は夕日へと変わり、鱗雲が出てからは天候が一転して外は土砂降りとなっていた。あれから教室に戻って、午前中で早退した私は部屋に籠もった。窓の外が暗くなるとともに、壁を伝って雨粒が打ち付ける音が部屋に響いていた。食事も喉を通らずに止まらない涙が流れ続ける。
でも、受け入れるしかなかった。事実はもう変えることはできない。
原因は恐らく"虐め"だろうと先生から伝えられた。追い込まれていた彼女に救いの手を差し伸べていれば何か変わったのだろうか……。
ふと宛もなく、会えない彼女の姿を探すように、私は傘を差して街を歩く。
「葵、ずっとずっと親友だよ。私の大切な親友……」
枯れそうな涙が一筋、頬を流れる。
あぁ……悲しみは涙なんかじゃ流れないよ。
傘を外して真っ暗な空を見上げると、天から降り注ぐ無数の雨粒が打ち付ける。もう流れているのは涙なのか、雨なのか分からない。
「え……?」
そんな私の横で、雨粒とは違った物が地面へと落下して跳ねた。音がした方へ視線を向けてみると、
「靴?」
私が背を向けている建物から落ちてきたのだろう。靴が片方だけ落下して雨に打たれていた。
だが、次の瞬間――。
「まさかっ!!!」
私は気づいてしまった。その靴に見覚えがあるとということに……。
直感だけど、靴は屋上から落ちてきたのだと思った。
考えることなく、私の身体はとにかく上へと行くために、ビルに設けられた階段へ向かって動き出した。
足が濡れる、スカートが張り付くそんな事は気にならない。傘なんて邪魔でしかないから、道路に転がしたままだ。
鉄板だからか、靴が滑って転びそうになるのを手すりを使って身体を支えて、一段飛ばしで階段を駆け上がる――。
最初のコメントを投稿しよう!