5 オタク、三次元の恋人を作ってしまう。

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 やがて出来上がった朝食をテーブルに並べる。  麻凪くんのトーストだけ、かじりかけだ。 「いただきます」  三人で手を合わせてから、朝食を食べ始める。  麻凪くんが手を止めずにパクパクと食べてくれる。嬉しい。 「ありがとな、鶴美」  食べながら、不意に鬼藤先輩からの感謝の言葉が降ってくる。  ドキッとして、嬉しくて、頬がじわんと熱くなる。  私はそれをごまかすように、慌てて違う話題を振った。 「いえ……今までは、どうしてたんですか?」  鬼藤先輩はもぐもぐと口を動かしながら、答えてくれた。 「朝はパン。食パンだったり、惣菜パンだったり」 「それだけ?」 「ああ。平日だと、時間もないしな」  私は自分の子供のころを思い出した。  朝ごはんは、いつも母が作ってくれた  起き抜けにキッチンに行けば、味噌汁の匂いがする。大好きな匂いだった。  そんな朝ごはんのある光景が、当たり前と思っていた。  けれど、それはとても特別なことだったのかもしれない。  今、目の前で麻凪くんが美味しそうに朝ごはんを頬張っている。  そんな麻凪くんを見ていると、私も母と同じことをしてあげたいと思ってしまう。  それは、鬼藤先輩が真摯に麻凪くんと向き合う姿勢を見てしまったから。  鬼藤先輩が『普通の家庭の温かさを感じて育ってもらいたい』と言っていた事を思い出したから。  私はこの不器用な家族を助けたいと、思ってしまった。 「鬼藤先輩。私――」  言いかけたところで、ちょうど食べ終えた鬼藤先輩がこちらを向く。目が合った。 「――昨日のお話、受けようと思います」  鬼藤先輩の目が、かすかに見開かれる。 「本当か?」 「はい。お付き合いしましょう。恋愛感情、抜きで」 「いいのか?」 「よくなきゃ言いません。ただし、条件があります」
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