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◇◇◇
そんなこともあって、あれから私たちはキスも交わさない。
手を繋いだり、肩を寄せ合うだけ。
それだけで、十分幸せだ。
それも本心ではあるのだが。
(本当は、心の準備なんてもうとっくにできてる。もう一度、触れて欲しいなぁ……)
そんなわがままな気持ちがむくむくと湧き上がる。
悠宇さんは私のことを考えて、寄り添ってくれているのに。
そんな彼の優しさに、余計に申し訳なさが募る。
「はぁ……」
小さくため息をこぼすと、悠宇さんがそれに気づいてしまった。
「大丈夫か?」
顔のすぐ近くで、悠宇さんの声がする。
顔を上げたら、唇が触れてしまうかもしれない。
そんな距離に、悠宇さんがいる。
だったら、彼の方を向いてしまおうか。
唇が触れ合っても、今なら事故だと言える。
そんなわがままな思考で振り向けば、悠宇さんはさっと私から身体を離す。
「悪い、近すぎた」
それが彼の優しさだと分かるのに、とても悲しい気持ちになる。
何やってるんだろうと自分に肩を落としていると、悠宇さんは不意に私の名を呼んだ。
「奈紡にも、プレゼントがあるんだ」
ドキリとした。
(嘘、どうしよう!?)
「あ、あの、私は何も用意してなくて! あー、そうか、クリスマスですもんね! ごめんなさい!」
何を慌てたのか分からないが、焦って謝罪の言葉を口にする。
それで、悠宇さんはクスクス笑う。
「別にいいんだ。奈紡にはいつも、もらってばかりだから」
「でも……」
とびきり優しく微笑む悠宇さんに、申し訳なさでいっぱいになる。
(そんなこと言ったら、私だってもらってばっかりだよ……)
肩を落とす私に、悠宇さんは続けた。
「強いて言うなら、これを受け取ってもらうことが俺にとって最高のプレゼントになるのだが?」
そう言って、悠宇さんは後ろ手に隠していたらしい、小さな四角い箱を私の前に差し出した。
(これ……)
すると、悠宇さんはさっとソファから降りる。
私の前にひざまずいて、箱の蓋を開いた。
「すぐにとは言わないが……、奈紡、俺の家族になってくれないか?」
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