23 OL、無愛想なエリート先輩との思い違いにようやく気付く。

6/8
前へ
/168ページ
次へ
 やがて他の動物たちも見ていると、麻凪くんは鬼藤先輩にだっこをせがみ、うとうとと船をこぎ出した。  すうっと寝入ってしまった麻凪くんを抱きかかえた鬼藤先輩を、私はそばにあったベンチに促す。 「なんだか、デジャブだな」  ベンチに腰かけた鬼藤先輩がそう言って、小さく笑う。 「そうですね」  私もつられて笑った。  けれど、あの時とは気持ちも状況も違う。  そう思うと、急に緊張がこみ上げた。  麻凪くんが寝てしまった今、ここにいるのは私と鬼藤先輩の二人だけなのだ。 「ありがとな」  不意に鬼藤先輩が口を開いた。 「え……?」 「巻き込んでしまっているのに、こんなことまで――」 「いいって言ったじゃないですか。巻き込んでくださいって、言ったのは私です」  鬼藤先輩は「まあ、そうだな」と言いながら、顔が真剣なものになっていく。 「鶴美に、ずっと謝ろうと思っていた」 「へ? 何を――」 「お前の、恋をダメにした」 (…………私の恋、とは?)  しばらく考え、脳裏に浮かんだのは二次元の元恋人の顔。  確かに、圭汰は私の恋人だった。  けれど、それがダメになったのは鬼藤先輩のせいじゃない。  それに。 「いいんです。圭汰は、全部まとめて十万でした」 「は?」 「え?」  ――どうやら会話がかみ合っていないらしい。  鬼藤先輩はぽかんとした後、「十万とは興味深いな」とクスクス笑った。 「いや、俺が言ったのはそれじゃない。源とのことだ」 「はい?」 「源と、好き合ってるだろ……」 「はい!?」  驚きすぎて大声が出た。  先輩の胸元で麻凪くんが小さく身じろいで、慌てて口元を抑えた。 「それは、何情報ですか?」 「……俺の、推測だ」 「なら、それははずれですね」 「だが、昨日も楽しそうに源と話していただろう」 「そりゃ、同じ営業チームですからね。仕事のバディだし、それに彼、麻凪くんのことも気にかけていて――だから、余計こっそり話してただけです」 「ああ……」  ぽかんとする鬼藤先輩に、思わずクスクスと笑みが漏れる。 「っていうか、私言ったじゃないですか。好きなのは、あの……えっと――」  会話の流れて言おうとして、急に恥ずかしくなってしまった。  言いよどんで、俯く。顔が熱い。  けれど、鬼藤先輩は私が何を言おうとしたのか察したらしい。 「あれは、友愛的な意味だと受け取っていた。お前の優しさだと」 「ち、違います! 私は、鬼藤先輩が――」  言い終わる前に、唇に何かが触れた。
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!

656人が本棚に入れています
本棚に追加