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「奈紡が、好きだ。どうしようもなく、好きなんだ」
その言葉が紡がれた瞬間に、涙が溢れた。
幸せで、満たされて。
「……私も、好きです」
照れくさくなって、先輩に向けていた視線を前にした。
そよそよと、優しい風が吹いている。
「好きだから、助けたいんです。好きだから、支えたいんです」
「だが、麻凪のこともある。俺と付き合っても、普通の恋人みたいなことは――」
「いいんですよ、そんなこと。好きだからそばにいたい。それだけじゃ、ダメなんですか? それに、恋人みたいなことは――麻凪くんが大きくなって、巣立っていってからでもできるじゃないですか。そうしたら、たくさんデートしましょう?」
「奈紡……」
小さく私の名前を呼んだ鬼藤先輩は、フフッと笑う。
「お前は、本当に優しいな」
「鬼藤先輩だって優しいじゃないですか。私は、鬼藤先輩に何度も助けられま――」
言いかけて、また唇がふさがれた。
ややあって、唇が離れて。
「ちょ、ちょっと、ここ外です!」
「……じゃあ、帰ったらまたする」
「あの、そういう問題じゃ――」
「ああ、それから――」
鬼藤先輩は、とびきり優しい顔で言った。
「名前で呼んで欲しい。あの時、みたいに」
「……悠宇、さん」
言えば、また彼の口が近づいてきて。
だからそれを、今度はかわして。
「だから! 外ではだめです!」
「分かった。じゃあ、家までとっておく」
「そういう問題じゃ――」
言いあっているうちに、麻凪くんが起きてしまった。
はっとして、二人で麻凪くんの顔を覗く。
彼の寝起きの顔は、ふにゃんと笑っている。
「なつむとゆう、仲良し。ぼくも、いれて」
その言葉に、笑顔に、胸が掴まれたようにきゅうっとなって、じんわりと温かくなった。
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