5 オタク、三次元の恋人を作ってしまう。

8/8
572人が本棚に入れています
本棚に追加
/168ページ
「条件……?」  鬼藤先輩は怪訝な顔になる。けれど、私はそのまま続けた。 「まず、鬼藤先輩には彼氏のフリをして、私の両親に会ってもらいます」 「直接、か?」 「はい。そうでもしないと、あの人たち多分納得しないので。日取りは、私が調整します」  鬼藤先輩は後頭部をポリポリ掻いた。 「次に、会社ではお付き合いしていることは一切口外しないで下さい。色々と勘ぐられて、面倒なことになる気しかしないので」 「ああ」 「それから、期間を决めたいです」 「期間……?」 「はい。いつまでもダラダラと引きずっているのは嫌なので。期間は、鬼藤先輩がある程度お料理ができるまで、にしましょう。それから――」  鬼藤先輩は「まだあるのか」と小声で呟いたけれど、私は構わず続けた。 「麻凪くんに期待を持たせすぎないこと」 「それは、わきまえている」 「最後に、人の趣味に口を出さないこと」 「……は?」 「最後のが一番大事です、よろしくお願いします」  鬼藤先輩は小首をかしげる。 (だって、圭汰との時間が一番大切だし、圭汰と会えなくなるのは嫌だし、かと言って鬼藤先輩にオタバレするのは嫌なんだもん!) 「分かった。じゃあ、俺からもいいか?」  鬼藤先輩はふう、と息を吐き出して、それから私の方に体ごと向き直る。 「ここに、一緒に住んで欲しい」 「何でですか!?」  思わず大きな声が出た。けれど、鬼藤先輩は何でもないように答える。 「その方が、利便性がいいだろう。朝も夜も、ここに寄るのじゃ鶴美が疲れてしまう。幸い、部屋がひとつ余っている。片付ければ、そこに鶴美も住める」 「で、で、でも!」 (麻凪くんに期待を持たせすぎないことって、言いましたよね?)  ギロリと鬼藤先輩を睨むけれど、その隣で麻凪くんがこちらをじっと見ていることに気がついた。 「なつむと、いっしょに住むの!?」 (ああ! だから言ったのに……)  期待のキラキラした眼差しに、今更ノーとは言えない。 「ええっと……」 「ああ。麻凪、これからは鶴美がご飯を作ってくれるぞ?」 「わーい、なつむのハンバーグ食べ放題だ〜」  万歳しながらそう言う麻凪くん。嬉しそうに、少しだけ口角をあげる鬼藤先輩。 (ああ、私なんてことを……)  後悔と反省を胸の内でしながら、二人に苦笑いを返した。
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!