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「条件……?」
鬼藤先輩は怪訝な顔になる。けれど、私はそのまま続けた。
「まず、鬼藤先輩には彼氏のフリをして、私の両親に会ってもらいます」
「直接、か?」
「はい。そうでもしないと、あの人たち多分納得しないので。日取りは、私が調整します」
鬼藤先輩は後頭部をポリポリ掻いた。
「次に、会社ではお付き合いしていることは一切口外しないで下さい。色々と勘ぐられて、面倒なことになる気しかしないので」
「ああ」
「それから、期間を决めたいです」
「期間……?」
「はい。いつまでもダラダラと引きずっているのは嫌なので。期間は、鬼藤先輩がある程度お料理ができるまで、にしましょう。それから――」
鬼藤先輩は「まだあるのか」と小声で呟いたけれど、私は構わず続けた。
「麻凪くんに期待を持たせすぎないこと」
「それは、わきまえている」
「最後に、人の趣味に口を出さないこと」
「……は?」
「最後のが一番大事です、よろしくお願いします」
鬼藤先輩は小首をかしげる。
(だって、圭汰との時間が一番大切だし、圭汰と会えなくなるのは嫌だし、かと言って鬼藤先輩にオタバレするのは嫌なんだもん!)
「分かった。じゃあ、俺からもいいか?」
鬼藤先輩はふう、と息を吐き出して、それから私の方に体ごと向き直る。
「ここに、一緒に住んで欲しい」
「何でですか!?」
思わず大きな声が出た。けれど、鬼藤先輩は何でもないように答える。
「その方が、利便性がいいだろう。朝も夜も、ここに寄るのじゃ鶴美が疲れてしまう。幸い、部屋がひとつ余っている。片付ければ、そこに鶴美も住める」
「で、で、でも!」
(麻凪くんに期待を持たせすぎないことって、言いましたよね?)
ギロリと鬼藤先輩を睨むけれど、その隣で麻凪くんがこちらをじっと見ていることに気がついた。
「なつむと、いっしょに住むの!?」
(ああ! だから言ったのに……)
期待のキラキラした眼差しに、今更ノーとは言えない。
「ええっと……」
「ああ。麻凪、これからは鶴美がご飯を作ってくれるぞ?」
「わーい、なつむのハンバーグ食べ放題だ〜」
万歳しながらそう言う麻凪くん。嬉しそうに、少しだけ口角をあげる鬼藤先輩。
(ああ、私なんてことを……)
後悔と反省を胸の内でしながら、二人に苦笑いを返した。
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