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晩鐘
夕焼けに教会の壁が染められて
晩鐘が鳴り響く。
晩鐘 ーーー 死者への敬意を払い祈りを捧げるジャン・フランソワ・ミレーの絵画のように、少女は聖堂で祈りを捧げていた。
その背後に歩み寄った青年は少女の祈りが終わるのを待っていたがおそらく少女は報告を聞かずとも結果を知っているだろうと沈黙を守る。
「...私が行きます」
祈りを終え、ぽつりと呟くようにそう告げると青年はうんざりするようにため息をついた。
「シャルル自ら出向く必要があるだろうか」
「家族の一大事ですから。それに、アレが無事か確認する必要もあるでしょう」
少女の名は『シャルル=アンリ』
フランス革命時に名を馳せたムッシュドパリの名だ。
彼女には秘密がある。
崇高なる信徒であることで神に気に入られたか、はたまた多くの命を奪ってきたことへの罰か、前世の記憶が全て残ったまま生まれ変わってきたことだ。
奇しくも今回は女性として生を受けたが、これはこれで人体の研究にも役立つことだろうと本人は思っている。
「そのために手紙を出して、今日もこの格好で待っていたのですから。戻るまでは私のことはエマと」
赤毛のヘアードレスに、そばかすを書き入れメガネもつけた彼女は立ち上がるとヒラリとチェック柄のスカートを広げた。
「...」
「ムッシュドパリの一族として恥じぬ行いを」
留守を頼むと言われた青年は少し口を尖らせたが、シャルル…エマがにこりと笑うと渋々頷いた。
「シャルルアンリの仰る通りに」
「あ、お土産は何がいいでしょう?イタリアは地域によって料理も違いますから帰りは寄り道したいところなんですが、オリーブオイルは欠かせませんね。本場のジェラートは久々ですから絶対食べようかと思っているのですが、お土産には向きませんし…」
にこにこと笑いながらあれこれと思案しているエマに青年はぽつりと呟いた。
「...だから行かせたくないんだ」
一ヶ月前を最後に『家族』の連絡が途絶えた。『兄』にはエマ自ら会いに行く事を手紙にしたが連絡はない。
回収した物の無事を、『家族』の健在を確かめるべく、エマはイタリアへと向かう。
その先で運命の出会いが待っているなど思ってもいなかった。
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