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広いサロンでドミニクと食事をあらかた済ませ、バルトロがドルチェを取りにキッチンへ戻っている合間に報告を受ける。
『兄』の死後、家具などは全て家の中にあり例のアレも売られた形跡などはないとのこと。
「ジャンは海に捨てられていた。酒で酔った上に足を滑らせたってことになってる」
見事仕事をこなしてくれた『兄』に十字を切り、ロザリオを握る。ドミニクは黙って祈りが終わるのを待ってから淡々と話を続けた。
「墓はこちらで準備した。遺体を持ってはいけないが、せめてこれを」
そう言い一束の赤毛をテーブルに置いた。
それに労いの言葉をかけながら常に持ち歩いているロザリオへと収める。
『家族』が死ぬ度に増える髪束はもはや300を越える。国へ戻り、あるべきところへ納めるまではここに留める。
「それと、これは不確かな情報だが。」
ドミニクがそう告げるとちょうどバルトロがドルチェを運んできた。
「本日のドルチェは苺のセミフレッドです。」
目の前に置かれた三種のベリーを添えられた四角いアイスはほんのりとワインの香りがする。
「今日はジェラートを食べ損ねて、冷たいドルチェが食べたかったの。グラッチェ!バルトロ」
思わず手を叩いて喜ぶと早速一口頬張る。
セミ=半分 フレッド=凍った という名の通り、ふわりとしたバニラがすうっと溶ける。隠し味に入ったレモン果汁で後味が爽やかだ。
「お気に召されたようで何よりです」
「カルロはこんなに美味しい食事を食べられないなんて、可哀想な人ね」
サロンを飾る塵一つない豪華なシャンデリアに装飾品、屋敷の主人が留守であっても来客をもてなす家老は、食事に掃除に、恐らく書類仕事なども担っているであろう。一切の手を抜かない彼を称賛する。
「もしカルロから連絡があった際はあなたの仕事振りを話しておくわね」
「感謝致します。ですが、お帰りになる際は連絡するように、とだけ伝えていただければ…ああ、あとはちゃんとお食事を好き嫌いなく取られますように、と」
それから… と次々に出てくる主人への小言に夜は更けていく。
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