こっくりさん、こっくりさん

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 ――私だけだった。異臭がして全員が困惑していた時、廊下側を背に座っていた私だけが、窓の外を逆さまに落下していく男と目が合ってしまったのだ。  それ以来、毎日のように夢を見る。  夕陽の差し込む教室の片隅でこっくりさんの続きをしていた。 向かいに知らない女性が座っていて、二人で五円玉を動かしている。 「私の運命の人は誰ですか?」  女が楽しそうに聞くと、五円玉はスムーズに紙の上を滑っていく。  "ひ" "ろ" "し" "く" "ん"  女は満足そうな笑顔を浮かべながら続けて質問する。 「じゃあ、彼女の運命の人は誰ですか?」  "いいえ" 「ね?ね?だからね?あなたの運命の人はひろしくんじゃないの。分かったでしょ?ひろしくんは私の運命の人なんだから……だからアンタは違うの!!ひろしくんは絶対に私を選ぶんだから!!!!」  耳をつんざく甲高い絶叫、血走った目を見開きながら髪を振り乱す女の姿を、私は目を閉じる事もできず見ていた。 「それなのにひろしくんと目を合わせるだなんて……許せない許せない許せない許せない許せない!!」  ピタリ、と女の動きが止まった。女の視線がゆっくりと横にずれていき、私の後ろの何かを見つめているのが分かる。  ――酷い鉄錆びの臭いがする。  ぴちゃり、ぴちゃりと水滴が落ちる音とともに何かが近付いてくる気配を感じる。 「ごめん、ごめんね。僕のせいで君を巻き込んでしまった。ごめんね……」 「あぁ、ひろしくん、大丈夫だからね?ひろしくんに近付く悪い女は私が殺してあげるから……」 「ごめんね……ごめんね……」  ――いつもそこで目が覚める。  男女は毎日のように夢に出てきた。  繰り返し、繰り返し、女は剥き出しの敵意を私に浴びせ、男は謝罪を続ける。  いつからか眠るのが怖くなった。  眠ればあの夢を見てしまう。  必死に寝ないように努力しても、限界が来て私はこっくりさんの続きを始めてしまう。  頭がおかしくなりそうで、不安定になった心で心配してくれる家族にも辛く当たってしまうのが何よりも苦しかった。  三年が経ち、自分が正常なのか異常なのかの判断もつかなくなった頃、それまでずっと同じだった夢に変化が現れた。  その時、向かいに座る女が何故かとても上機嫌だったのを覚えている。 「ようやく分かったの!もう大丈夫!」  はしゃぐ子供のように言うと、女は五円玉から指を離し、席から立ち上がった。 「今から行くから、待っててね?」  コン、コン。  自室のドアをノックされる音で目が覚めた。  酷い寝汗と倦怠感に襲われながら、ドアへと視線を移す。  コン、コン。  身体に力が入らず、上体を起こす事すらできずにいると、ドアの向こう側から声が聞こえてきた。 「ごめんね……ごめんね……」  瞬間、これまで何も無かったはずの足元に何かの気配を感じた。 「本当にごめんね……」
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