魅惑のお薬

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 あたしたちは、薬屋さんに向かった。  その道中、瑠輝乃も殺人伝シリーズをよく読んでいること、過去の殺人事件についてよく調べたりしていることを教えてくれた。  こんなにもあたしと同じような境遇を生きている人がいるんだ。  そんなことを思いながら歩いていたら、薬屋さんについた。  【叶 薬屋】と書かれている。  引き戸をがらがらと開けて、瑠輝乃は中に入っていった。  中は、年季の入った木のカウンターと、これまた年季の入った木の大きな引出が一つと、薬屋という感じがしなかった。  「あら瑠輝乃ちゃん。今日は彼女も連れてきたの?」  薬屋の店主とおぼき銀髪の浴衣を着たおばさんがカウンターの下から出てきて言った。  「この子は、僕のクラスメイトのミズハさん。ミズハさんも、"人生が退屈だと感じなくていい薬"が欲しいっていうから、連れてきたんだ」  「始めまして。…水葉魅区(みく)です。えと、水の葉っぱに魅力の区間って書いて水葉魅区」  「そうかい。それじゃ水葉さん、これが"人生が退屈だと感じなくていい薬"だよ」  そう言っておばさんは、大きな引出から赤い小さな入れ物をいくつか取り出すと、カウンターの上に置いた。  「一つ、二千円ね。十個買ったら一つ分おまけしてやるよ」  に、二千円!?  あたしは鞄から財布を取り出して中を見る。…持ち金だと、八回分買えるか。    「取り置きしといた二十個分、下さい」  二十個‼…四万円分…。  「あいよ。ほれ、特別大サービスだ。三つもおまけしといてやったよ」  「ありがとうございます」    さぞ嬉しそうに瑠輝乃はおばさんから、紙袋に入った赤い薬の入った入れ物を受け取っていた。  「さて、水葉さんはどうする?」  「あたしは…五つで」  あたしは財布から一万円札を取り出して、カウンターに置いた。  「まいどあり〜」  そう言って一万円札をカウンターの中の引出に仕舞うと、五つの赤い薬の入った入れ物を袋に入れ、あたしに渡してくる。  「この薬は、四時間に一回飲まないと効果切れちゃうからね。水葉さんの場合、効果二十時間後に切れちゃうでね」  「…とりま、お試しってことで」  「そうかい。またのお越しを〜」  そうおばさんに言われて、あたしたちは店を後にした。    
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