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タケシ「ただいま」
父「ヘイ、マグロ一丁!」
母「マグロかしこまりぃ」
タケシ「・・・もうやめてくれよ。なんだよこの毎日のやりとり。ただいまって言ったら、おかえりだろ。しかもうちは寿司屋じゃねぇだろ」
父「えっ、母さん、タケシがうちは寿司屋じゃねーってよ」
母「じゃあ、うちは何屋なの、タケシ」
タケシ「何屋でもねーよ!何回言えばわかるんだよ。ごく普通の、民家!」
父「波のぉ谷間にぃ命の花がぁ♪」
タケシ「それ演歌!」
父「おお、いいツッコミだ。なぁ母さん」
母「ほんと!間髪入れずだったわね」
タケシ「毎日このやりとりしてりゃいくらオレでも覚えるわ!」
父「なんとか統一」
タケシ「天下!うるさいっ!!」
母「お父さん、新しいヴァージョンじゃない」
父「うん、昨夜寝ずに考えてたんだ」
タケシ「寝ろ!」
父「タケシ、よく聞きなさい」
息子「なんだよ」
父「中学生になれば反抗期になる。山村さんとこなんか1週間も息子さんと口をきいてないそうだ。それがどうだ、うちはこんなに、朗らかな会話と笑いがある」
タケシ「オレ、1ミリも笑ってねぇけど」
母「ううん、母さんわかるの、お前が心の中で爆笑していのが」
タケシ「してねーよ!っていうかさ、なんで普通におかえりって言わないわけ?」
父「タケシ、それじゃお客さんが、笑えないよ」
タケシ「お客さん?どこにいんだよそんな客が」
母「目の前にほら、満席のお客さんがいるじゃない」
父「毎日満席だ。ぎっしり、30人」
タケシ「少なっ!じゃない。どこツッコんだらいいかわかねーけど怖えーよその話」
母「タケシ、怖がっちゃダメ。ステージは生物よ」
父「そうだ、ナマモノだ!」
タケシ「イキモノっ!」
父「そう、そのツッコミ!キレてるねぇ」
母「キレてなぁーい」
タケシ「古っ!あーまたツッコんじまった。なんで、なんでオレはすぐこんなくだらない親のボケにツッコんじまうんだよぉ」
母「お父さん、もう話していい頃じゃない」
タケシ「え、話?なんだよ話って」
父「そうだな。もう中学生だからな」
タケシ「タメになったねぇ〜、あーっ違う!あああっ!」
父「母さん、こいついつのまにか、ノリツッコミもマスターしてるぞ!」
母「タケシったら・・・」
父「泣かんでいい母さん。ワシまで泣けてくるじゃないか」
タケシ「だから何を話してもいいってんだよ」
父「あーそうだったな。実は、お前が生まれてからすぐに、睡眠学習法を実践しているんだ」
タケシ「睡眠学・・・え、それって寝てる間に声聞いてると頭に入るってやつ?」
父「そうだ。お前が寝ている間、ずーっと、尊敬するダウンテウンさんのテープをほぼ毎日、聴かせていたんだ。いまでも」
タケシ「マ、マジか・・・!マインドコントロールじゃねーか」
父「違うぞ。ただの、洗脳だ」
タケシ「そっちの方がずっと怖ぇよ。そうか、それでオレはついついツッコんじまうのか・・・おかしいと思ってたんだずっと」
母「あなた、タケシが感動しているわ」
父「3人でハグするか」
タケシ「するかボケ!」
父「おおおっ」
タケシ「おおおじゃねぇよ。あんたら頭おかしいよ。あーなんか頭痛してきた。しばらく部屋にこもるわ」
父「タケシ、話はまだ終わってないぞ」
タケシ「もう何も聞きたくねぇよ!」
母「待ちなさいタケシ。勝手に舞台を下りるのは、お笑い芸人としてあるまじき行動よ」
タケシ「ん、舞台?」
父「え、まさかお前、この家がセットじゃくほんとの家だと思ってたわけじゃなかろうな」
母「お父さん、さすがにそれはないわよ」
タケシ「セット?何言ってんだよ。普通の家だろこれ」
父「じゃあ、お前が胸につけてるのはなんた」
息子「胸?・・・あれ、なんだこれ」
母「ピンマイクもわからないの」
タケシ「ピン・・・あーあー、本日は晴天なぁりぃ」
父「古っ!テステスだろいまは」
母「あなたがツッコんでどうするのよ」
父「おっとすまん」
タケシ「あれっ、玄関ドアの向こう、なんだあれ」
父「そっちは舞台袖。下手だ」
タケシ「・・・外は?」
父「外?外なんてここにはないぞ。お前はな、生まれて一度も外には出ていない。下手から、ただいまと言って帰って来て、父さんと母さんとこうやってお客さんの前でボケとツッコミでお笑いショーをやって、上手にはける。ずっとその繰り返しだ」
母「そしてこれからもずーっも3人でお笑いショーを続けていくのよ。それが私たちの日常だもの」
父「それが、お笑い芸人の人生だ」
タケシ「お、お前、誰なんだよ・・・」
母「タケシ、座長にお前は失礼よ」
父「首が長くて足も早いぞ」
息子「それ・・・ダチョウ」
父・母「お後がよろしいようでぇ!」
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