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「あいつ、目が赤いぞ。吸血鬼だ! 捕まえろ!」
僕を捕らえようだなんて、無理に決まってるだろ? 吸血鬼化が進んだ僕のことを、人間が捕まえられるわけがない。
遠くに聞こえる叫び声は次の瞬間には遥か彼方後ろ。
僕の足は風よりも速く走り、鳥よりも高く飛ぶ。
射られる矢が僕の足を掠め、剣の切先がこめかみに傷を作る。
そんな傷も、血が出る前には消え去ってしまう。
あぁ、僕は本当にバケモノになり下がってしまったんだ。
それでも僕は走り続ける。腕に抱いた宝物を落とさないようにだけ注意して、ただ真っ直ぐに。
「レオ。これ、今日の分のお薬ね。ちゃんと飲んで」
母さんは毎日僕に一錠の薬を渡す。
それは丸薬のときもあるし、カプセルの時もある。粉薬を渡されたことはないってことは、僕が飲んでるコレは、きっと味が酷いんだ。
「うん。わかってるって」
毎日同じ母さんからの注意。僕が飲み忘れないようにって、しつこいぐらいに念を押す。
大好きな母さんから渡される薬にどんな効果があるかなんて、詳しく聞いたこともない。
だって、母さんが僕のためにならないようなものを、飲ませるわけがないんだから。
「レオが今のまま元気でいられる薬なの。絶対に飲み忘れたりしちゃダメよ」
「はぁーい」
僕の手のひらに薬を握らせながら、母さんが苦しそうにそう話す。
母さんのそんな顔を見たくなくて、僕はいつでも何も考えてないフリをしながら、わざとらしく明るく声を出して薬を口に放り込む。
口の中に溜まった唾を飲み込むのと同時に、薬を喉の奥へと運び込んだ。
水? そんなものいらないよ。毎日飲んでる薬、いつだってどこだって、簡単に胃の中へ入れられる。
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