推しの子に推される私

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そして後ろのスライドドアがあけられ…… 今日も全員そろっての入りであった。そして私はカエデ様を見ていつものように絶叫する! 「カエデ様ーーー!愛してますーー!今日も素敵ですーー!」 隣の美穂も、周りのファンも叫び出す。 そして私は、カエデ様がこちらを向いて手を振った後、唇に手を充て放った投げキッスにより、意識を手放していた。 「はっ!」 私は自分で自分を確かめる。さっきまでの騒がしさはすでに無くなっていたが、隣の美穂も若干放心したようにだらしない顔をしていた。ちょっとときめいてしまう。 「美穂……今日もやばいね……」 「はっ!あ、ああ。やばいね、本当に何秒か死んでたわ……」 二人ともすでに誰もいない裏口をじっと見ていた。 そこからはひたすら美穂と推しトークを続け、会場と共に順調に中へと入っていく。流れるように今日のカエデ様のオフショット写真を全種購入する。もちろん今日もそのお姿は神々しい光を放っていた。 写真をすばやくファイルにしまい、眺めながら席に座る。今日はかなり前の方を取ることができた。最高の一日になりそうだ。 そして時間になり会場のライトが落とされる。 ステージにライトがともり……オープニングのイントロが流れ出す……デビュー曲でもある『カラーズ』のイントロに全員立ち上がり、手に持ったライトを振り上げる。 私も両手に持った真っ赤なライトを頭上で振り回す。 今日も……夢の世界の幕が開ける…… ◆◇◆◇◆ 私は座席で放心状態になっていた。 燃え尽きた……私は、真っ赤に燃え尽きちまったよ……もう、歩くことさえままならない…… 全身全霊をかけての応援で全身びしょぬれで精も根も尽き果ててしまった私…… 「直子!もう出てくるって!」 「ひゃっほー!」 美穂の言葉に疲れ切った体が嘘のように蘇る。急がなきゃ! 私は会場をでて通路を急ぐと、ある一室に続く列へと並ぶ。列とはいっても今日は26名ほどの列。この列は通称VIP部屋へとつながっている。 ファンの中でもプラチナパスを持っている選ばれし者だけが入れる部屋である。 年間12万円という中々なお布施を払った猛者だけが、月に一回この部屋に入室が許可されるのだ。 部屋に入ると、メンバーカラーに彩られた5つの席の前に並ぶファンたち。 私は当然のように真っ赤な席の前に並ぶ。今回は9名の仲間がいるようだ。やはり一番人気である。ちなみに2番人気は青で7名である。やはりマリン様の幼い体に魅了された者たちも多いようだ。 美穂が並んだ黒、トバリ様は4名である。美穂以外はみな男性ファンであった。 そしてガチャリというドアが開いた音と共に、室内が一斉に騒がしくなる。目の前にはカエデ様が……他のメンバーと共に登場してそれぞれの席に座る。それだけで気を失いそうになった。しかし私はそれを良しとしない。 ここで倒れでもしたら大迷惑な話である。それだけは避けたいと気力を振り絞る。そしてこちらに向けられるカエデ様の笑顔……私はダメかもしれない…… そんなことを思いながらも、私は自分の順番が来るのをまった。 ここで互いに話ができるのは約5分。 今日は……いや今日もだが、先月からの期間で購入した全オフショットから選んだ珠玉の一枚、この『カエデ様ちょっとお眠でぱじゃま着崩しショット』にサインをもらわなければ…… 次は遂に私の番だ。 私は震える手で白手袋を鞄から出して装着すると、ファイルからそのお気に入りの一枚を取り出した。 いよいよお私の順番になり、震える足を一歩前へ踏み出した。 「カ、カエデ様!今日も素敵な時間をありがとうございましゅ!」 噛んでしまうのもいつものこと。私は微笑むカエデ様も見ながら写真を手渡した。 「ナオちゃん今日はこれにサインでいいのね?あっちょっとこれ!一番恥ずかしい奴じゃん!やめてー照れちゃうー!」 カエデ様は恥ずかしそうにしながらも受け取った写真にサインをスラスラと書いてくれる。というまだこんな私の名前を憶えてくれている。あの素敵な唇から私の名前が発っせられている。写真にはカエデ様の貴重な指紋が指紋が指紋がーー! 「ナオちゃん?いつも通りちょっと顔キモイよ」 「あっえっと、すいましぇん!カエデ様が可愛すぎて涎がとまらないんでふ!」 私は手で口をぬぐう。本当に涎が垂れてしまいそうに口元は、見苦しいほどに緩んでいることだろう。仕方ないここは夢の宴なのだから。 「ふふ。相変わらずのきもさね。でも毎回ライブにも来てもらってるけど……ちゃんと寝てる?体調だけは気を付けてよね」 「はひ!それはもちろん!」 私を心配してくれる!そして私の手を握ってくれる。というか白手袋をした私の手を……まって脱ぎたい。でも写真しまわなきゃ。 私は手袋越しのカエデ様の温もりを感じながら、纏まらない思考を巡らせたまま、思考が迷子になってしまった。 「あっとりあえず写真しまう?」 「は、はい!喜んで!」
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