猫の涙

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「何でも好きなものを頼んでいいですよ、奢りですから」  望月さんは微笑んだ。怖そうな見た目によらず優しい笑顔だ。  緊張をほぐす為か、彼は食事の間もジョークを交え話してくれた。  食事の後、僕の本の表紙のデザインができたと言ってコピーを見せられた。プロのイラストレーターに絵を依頼していたが、まだ完成系を見ていなかった。  予想以上に素敵な出来に、息を呑んだ。 「凄い、僕の小説がこんなに‥‥‥」  僕の本が店に並ぶなんて夢じゃないかと思っていたが、いざ完成系の本の外観を見てみると、夢が叶ったことが急に現実感を帯びてきて、目頭が熱くなった。  泣き出した僕を、望月さんは目を細めながら見ていた。
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