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僕は宮沢賢治の童話が好きで、『どんぐりと山猫』は幼い頃繰り返し読んだ。だから子ども向けの話を書いてみようと思った。
最初は『猫と少年』という題名の物語を書いた。
あるところに一匹の野良猫がいた。誰か手を差し伸べる人がいても、牙を剥き出して爪で引っ掻くので、いつしか猫の世話をしようという人は居なくなった。
ある日一人の少年が現れる。彼は猫が唸っても引っ掻いても構わず餌を持ってくる。猫が食べていると、少年は離れた場所で見守っている。
段々猫は警戒を解き、少年を威嚇したり攻撃することはなくなる。相変わらず撫でようとすると逃げるが。
ある日、車に轢かれ道路で血を流して横たわる猫を見つけた少年は、猫を抱き上げ病院に連れて行く。獣医は無料で猫を治療してくれる。
猫はずっと意識が戻らなかったが、三日後に目を覚ます。少年は喜び、猫を家に連れ帰って部屋に隠して看病する。猫は元気になり、もう少年に撫でられても嫌がらない。
だが少年の父親は、家族に暴力を振るう非道な男だった。猫がいるのを知った父親は少年を殴り、飼うなら出て行けと言う。
少年は猫を連れて家を出て、遠くの町の公園で暮らし始める。僅かなお金で食べ物を買い、猫に与える。
猫は心配だった。自分にご飯を与えるために、少年は食べないで痩せて弱って行くからだ。
ある日公園に一人のお婆さんがやってくる。お婆さんは少年と猫を家に連れ帰り世話をしてくれる。お婆さんの畑では沢山の野菜を育てていて、それを食べて少年は元気になる。猫もお婆さんには心を許す。
それまで通学を許されなかった少年は、学校に通い始める。三人は幸せに暮らしていたが、少年が高校生の時にお婆さんが死んでしまう。
少年はお婆さんの畑を大事に耕しながら生活を続けたが、猫は歳をとって弱っていく。
ある日、少年は猫に好物の焼いた秋刀魚をやる。猫はそれを食べながら涙を流す。
次の日猫はいなくなり、二度と帰ってはこなかった。悲しくて少年は泣く。だがふとした時に猫が近くにいる気がした。
その後少年は必死に勉強を続けて獣医になり、沢山の動物の命を救う。救えずに死んでしまう動物もいて、そんな時彼は自分を無力だと思う。だが猫とお婆さんのことを思い出して、気持ちをふるいたたせる。
そして40年が経ち、年老いた彼は獣医を引退する。
だがあの時の猫の涙の意味を、いくら考えても分からないのだった。
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