聴取

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聴取

 最後の事情聴取が終わった。海野先生だ。顔面真っ白で待合室に姿をあらわす。 「まったく、昨日最後に帰宅、今日一番に到着しただけで根掘り葉掘り。私が犯人とでも言いたそうよ」  怒りの口調だ。 「昨日は遅かったんですか?」  やちよの問いに、 「薬歴書きに30分ほど残業しただけよ。その間に、大阪社長と山口さんは一緒に帰ってしまった。アリバイが無い最悪の状況だわ」    薬歴とは、医師のカルテのように薬剤師が書く薬のカルテだ。『グレープフルーツジュースを飲まないように指導した』等を記載する。  海野先生からも警察に聞かれたことを話してもらった。  薬歴を記載して、海野先生は待合室に異常が無いか簡単に確認した。念のため職員スペースも一通り見て、マスターキーをかけて車で帰宅した。  翌日、一番に出社。とはいえ他の社員と10分ほどしか変わらない。調剤室が荒らされたことは分からなかった。派手に引き出しが開けられていたのではないから10人いれば10人とも見逃すはずだ。レジが壊されたのを発見、社長が出社したタイミングで報告、スタッフ全員が揃い、やちよが来た後社長が通報した。  盗難されたのはリンヴォック錠45mg10箱、30mg錠3箱、15mg錠3箱、7.5mg錠2箱だ。薬局が加入する保険があるため、被害の半額は補填されるということだ。 「リウマチ患者が盗んだ線も当たるみたい」  リウマチには、15mgか7.5mg錠が使用される。薬代は一か月4万円から5万円。動機としてはまあまあだろう。 「無菌調剤室が何なのかも聞かれたわ」  確かに、無菌調剤室を持つ薬局は少ない。クリーンベンチという清潔な箱の中で点滴に薬剤を無菌的に注入する。操作には使い捨ての帽子、マスク、ゴム手袋を着用する。  ゴミ箱に手袋や帽子があったことを指摘されたが、これは6月3日の土曜日に社長を含め薬剤師3人が無菌調剤の練習を行ったためであり何の異常性も無い。  やちよはここまで聞いて、何かが引っかかった。  何かトリックがある。もしかしたら。  回答が閃く。
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