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「ばかな、どうして私が、事と次第によっては会社にクレームを入れるぞ」
大阪社長がすごむ。
「昨日はリンヴォックを大量発注し、売り上げ金の回収も忘れた。というか、できなかったのです」
トリックは分かっている。やちよは畳み掛けた。
「手提げ金庫に売上を入れることはできなかったんです。盗んだリンヴォックの箱が詰め込まれているんですから」
「うっ」
「あなたは、15分休憩を利用した。休憩に入れば、現場は3人で回さなくてはいけなくなり、忙しくて裏口に意識は向けられないでしょう。あなたはその時間、裏口から犯人を引き入れた。向精神薬は恐らくその時手渡したのでしょう」
「しかし薬局内に隠れられるスペースなど無い」
「いいえ。あります。職員用男子トイレです。この薬局のスタッフはあなた以外は女性。待合室の男子トイレならいざ知らず、職員用のトイレなどわざわざ開けて確認する人はいないでしょう」
現場がしん、と静かになる。
「職員用男子トイレに隠れた犯人は、海野先生が帰宅するのを待って犯行を開始した。恐らく金づちのようなものでレジを破壊し、二十数万円を手に入れた。そしてまた男子トイレに隠れる」
「指紋はどうだ?」
鶴原刑事が鑑識に聞く。
「いえ。まだ」
「そうでしょうとも。トイレの指紋はトイレクリーナーで拭いて流せばいい。そして、犯人は無菌調剤室の帽子と手袋を使った。でも手袋を脱ぐのは初心者には難しい。ひょっとしたら指紋や、毛髪が残っているかもしれませんね」
鑑識の一人が無菌調剤室に入ってゆく。
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