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滉一の言葉に頭が真っ白になり、僕はそのままドアを開けてしまった。
部屋は汚くない。それはまあ良いとして、僕は今だらけきった格好だ。
イジュンの写真を追いかけて轢かれそうになり、滉一に助けてもらった時の服――ソユンにもらった謎のキャラクターTシャツに、ゆるいショートパンツ――。
だけどドアを開けたときの二人の深刻そうな顔つきに、服装なんてどうでもよくなってしまった。
二人をソファへ案内し、アイスティーを入れてテーブルに置く。
個人的には気に入ってる部屋だけど明らかにワンルームで、ソファのスペースからベッドも見えていた。ドアの向こうはキッチンとバスルームで、当然ながらミンジェの部屋ではない。
「急だったから酷い格好ですいません」
「こっちこそ突然押しかけてすまなかったな。だけどどうしても千景の部屋を確認したかったんだ」
「……確認?」
「君はミンジェくんと一緒に住んでない。そうだよな?」
――やはりバレてしまったか。
僕がチラッとミンジェを見たが、彼は憔悴しきった顔で俯いていた。あんなことがあって騒がれているから、眠れていないんだろう。
「……はい。ミンジェとは住んでません」
「どうしてあんな嘘をついたんだ? ルームメイトでセフレなんてのは嘘で、本気で付き合ってるのか?」
「ちがいます! そういうわけじゃなくて、その……」
婚約破棄するためレンタル彼氏として依頼したなんて滉一に言えるわけがない。まさかこのことがバレると思ってなくて言い訳も何も考えていなかった。
「それより、どうして僕たちがルームメイトじゃないとわかったんですか?」
「個人的には必要ないと思ってたんだが、秘書が勝手に婚約相手である君の身辺調査をしたんだ」
「え?」
「気を悪くしないでくれよ。國重の後継者の本妻になる相手だからって形式上行っただけなんだ。だが、思いもよらぬ結果が出たと報告されてね」
――あ……そういうこと……?
婚約者の身辺調査なんて本当にやるんだ。御曹司だもんな。
「調査によると君は一人暮らしだというから驚いたよ。それでミンジェくんが誰なのか調べたけど大学の先輩ですらなかった。結果的に彼はミストラルコーポレーション所属の人物だと判明した。それでまずミンジェくんに理由を聞いたが、千景のことについては顧客情報だから何も答えられないと言う」
ミンジェは日本語がわからないせいか、相変わらず俯いたまま黙っている。僕は観念してその事実を認めた。
「……はい、その通りです。ミンジェは僕の先輩ではありません」
「じゃあなんで彼をあの場に連れてきたんだ?」
「それは――……」
僕が返答に困って黙り込むと、滉一が続けて言う。
「普通に考えたら、見合いの席に他人を連れてくるなんて縁談をぶち壊そうとしているとしか思えない」
「滉一さん、聞いてください。こんな嘘をついてしまって信じろと言うのは無理かもしれません。でも僕はあの時結婚はまだ早いと思ってたんです。だからミンジェに付き添いを頼みました。だけどお願いです、信じてください。今の僕は結婚に前向きですし、滉一さんとこれからも一緒にいたいです」
彼がこちらの目をじっと見つめた。黒い瞳が少し揺れている。
「君を大事にしたいと言ったのは嘘じゃない。俺は君をひと目見たときから惹かれているし、なんだって願いを叶えてあげたいと思ってる。君はまだ学生で、父親同士が勝手に決めた縁談だろ? だから、君にも事情があったのを考慮してこの件に関しては目を瞑ることにした」
彼の言葉に全身の力が抜けた。
――よかった……!
「滉一さん、ありが――」
「だが、もう一つの件は看過できなかった」
「――え?」
「君はアイドルグループZ-Touchのパク・イジュンを知っているな?」
「あ……」
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