12.イジュンとミンジェの事情

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まさかこの部屋に推しを迎える日が来るとは、想像もしていなかった。 ソファに腰掛けたイジュンはグレーのTシャツに黒のパンツ。髪の毛は洗いざらしでノーメイクだけど、そこに存在するだけでただならぬオーラを放っていた。 ――うう、近すぎて直視できない……! まるで発光してるみたいに輝いてない? 「あの、お、お茶です。どうぞ……」 お茶を差しだす手がぶるぶる震えた。危うくこぼしそうになったグラスをミンジェが受け取ってイジュンに渡してくれる。 やばい、良い匂いがして目が回りそうだよ。これは現実なんだよね? 目が覚めたら夢だったとかないよね? 「ありがとうチカ。突然押しかけてごめんね。どうしてもジュンがチカに会いたいって言うから」 「えっっ!? パク・イジュン氏が僕に!?」 ――なんで!? なんでイジュンが僕に会いたいわけ!? すると眉間に皺を寄せたイジュンが口を開く。 「お前が可哀想なオメガがいるから説明だけでもさせてくれって言うから来たんだろ」 「そうだっけ?」 「え……と、もしかしてこの前の滉一さんの話?」 「ああ。この前は滉一さんに弁解出来ずごめん。ジュンの許可なく俺が事情を話すわけにはいかなかったから。あの時ジュンはホテルに缶詰になってて、なかなか連絡が取れなくてここに来るのも遅くなってごめんね」 ミンジェは申し訳なさそうに頭を下げたが、イジュンは気のない風でそっぽを向いた。こっちを見られても僕の目が尊さのあまり潰れてしまいそうなので、横を向いていてもらえる方がありがたい。 「僕もあれからずっと悶々としてたんだ。滉一さんの話していた内容がちっともわからなくて――」 「そうだろうね。じゃあ何から話そうか……ねえ、ジュン」 「お前の好きにしろよ」 ――ミンジェはイジュンのことジュンって呼んでるんだ……なんかいいな。 ミンジェがイジュンの恋人かもしれないと知ったときはショックだった。でも、こうしてイケメン二人が並んでいる姿をこの距離で眺めるのは眼福でしかない。 イジュンも、普段画面越しに見るような素っ気ない態度と見せかけてミンジェとの座る距離はぴったりくっつくほど近い。なんとなくお互いに信頼し合っているんだろうなと感じた。 「うーん、じゃあまず俺たちの関係を説明しようか」 僕はソファの向かいのスツールに背筋を伸ばして座った。 「はい、お願いします!」 「――俺とジュンはつがいなんだ」 「……つがい?」 僕がぽかんと口を開けたまま二人を交互に見ていると、イジュンがチッと舌打ちして僕に背中を向けた。どんな髪型に変えても襟足の髪の毛を切ったことがないイジュンが、ブロンドにカラーリングされた襟足の毛を掴んで持ち上げた。反対の手でTシャツの襟元を下に引っ張ったのでうなじがしっかりと見える。 「ここ、タトゥーでわかりにくいけどよく見てみろよ」 「は、はい!」 僕はイジュンに言われて飛び跳ねるように立ち上がる。彼に近寄ってうなじを見た。 ――お金も払ってないのにこの距離でイジュンのこと見るなんて、いいのかな!? 「あ……歯型が見えます!」 羅針盤のタトゥーに隠れるように、歯型が見えた。よく見ないとわからないしそもそも髪の毛でいつも覆われていて、このタトゥーが何の柄なのか知っている人すら少ない。 ――これがミンジェの噛み痕ってこと……? 「でも、イジュン氏がミンジェのつがいってどういうことですか? 二人ともアルファなのに」 「あのねチカ、これは絶対に誰にも口外してもらいたくないんだけど」 「もちろん、秘密は守るよ」 「実は――ジュンはオメガなんだ」 「え……うそ……だってZ-Touchは全員アルファのグループじゃ――」 待って、そういうこと? 本当はオメガだからアルファのミンジェと恋人同士なんだ。 え、つがいっていつから?? 「この件について説明するとまた長くなるんだけど、ジュンは訳あってアルファとして事務所に入ったんだ」 そしてイジュンは練習生としてアルファと同じメニューの厳しいレッスンに参加。そのとき同期だったのがミンジェなのだそうだ。 「俺達は何年も練習生として一緒に過ごして、同じグループでデビューすることも決まってた」 「それがZ-Touch?」 「いや、ジェトチのデビューより前のことで、メンバーも全然違ったんだ」 しかしデビューを目前にして、事務所都合でイジュンを除く四人のデビューが決まった。イジュンの第二性がオメガだと事務所側にとうとうバレてしまったのだ。 それまでつらい練習に耐えていたイジュンにとっては絶望的なことだった。
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