13.兄弟の確執

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13.兄弟の確執

「僕のことまで考えて下さってありがとうございます。でも、とにかく二人が付き合えることになってよかった。僕もいちファンとして祝福します」 二人の話を聞いたおかげで、これまでわけがわからずモヤモヤしていた気分はすっきりした。 イジュンがミンジェの隣ですました顔をしていても、ふわふわと漂うフェロモンに喜びがにじんでいるのは隠せていなかった。 彼の香りをこれまでアルファのフェロモンだと思い込んでいたけど、オメガ由来のものも含まれていたんだ。イジュンを守りたいミンジェのフェロモンが混じり合って、なんとも言えない魅力的な香りに感じられるのだ。 イジュンがいくら冷ややかな態度をとってもファンを虜にしてしまう理由は、その愛されフェロモンのおかげでもあるのかも――。 「そんなことよりお前、兄さんの誤解を解きさえすれば結婚できるって本当なのか? 好みがうるさくて、今まで兄さんは決まった相手とは付き合わないようにしてたはずだけど」 「そうなんですか? でも、プロポーズと一緒に指輪も用意してくれてました」 「マジか、なるほどね。別荘にも行ったんだろ? 兄さんは自分のパーソナルスペースに他人は入れない主義だったから驚いたよ」 イジュンによると滉一は警戒心が強く、子どもの頃から友人を家に招くことすらなかったそうだ。 「だけど兄はお前を俺の送りこんだ人間だと勘違いした、と」 「はい――……滉一さんは僕のことをイジュン氏の関係者だと思ったみたいで」 「兄さんは頭の出来はいいんだけど、せっかちで思い込みが激しいところがあるからな――」 「でも、どうして自分の兄弟の関係者ってだけで僕は婚約破棄されちゃったんでしょう?」 「それは……俺が兄さんに嫌われてるからだよ」 イジュンは足を組み、自分の膝で頬杖をついた。むすっとした表情がなんだか可愛く見える。 ――お兄さんに嫌われたと拗ねるなんて、もしかしてイジュンって思ってたより寂しがりや? 「兄弟だけど仲が悪いってことですか?」 「別に俺は嫌ってねーよ。だけど、兄さんは俺が國重の後継者の座を狙ってると思ってるんだ」 「え、でもイジュン氏は芸能活動に忙しくてそれどころじゃないのに――?」 日本とは海を挟んだ韓国でアイドル、俳優として活動中なのに、どうしてイジュンが日本企業の後継ぎを狙ってるなんて思うんだ? 「だろ? 俺もそう思ったからこそこの仕事をしてるっていうのに」 イジュンはため息をつきながら兄弟の過去について語り始めた。 「俺の母親は後妻でね。兄さんの母親が亡くなった後で父と結婚したんだ。母が韓国人の血を引いてて、俺は日本名だと 潤二(じゅんじ)っていう」 あ……だから韓国名はイジュンで、ミンジェは「ジュン」って呼んでるのかな。 「俺の母親は、俺が生まれると兄さんじゃなくて俺を後継者にしたいと考えた。それで俺は元々そんなに出来が良くなかったのに子どもの頃から厳しく躾けられて、家庭教師にみっちり勉強を教えられた。進学校には通えていたけど、中学の時の検査でオメガだと判明した」 つまり、アルファの滉一との後継者争いにはかなり不利になったということだ。 「母親はその結果を見て発狂寸前になってたよ。それで無茶なホルモン投与に手を出して俺をアルファに仕立て上げようとした」 一般的ではないが、最近ホルモンを投与することで第二性を変化させる技術が開発されていた。 それをまさかイジュンが受けていたとは……。 「あれって本当に効くんですか?」 「一応効果はあって、俺はこの通り身長も伸びてオメガにしては筋肉も結構あるだろ」 「たしかに……」 イジュンは身長180センチで、滉一ほど筋肉質ではないものの、逆三角形の見事な肉体の持ち主だ。 「その反動でオメガのホルモンが乱れて、ヒートの時期が定まらなくなったけどな」 「そこまでして……」 「結構メンタルもやられてたんだけど、そんな時俺はK-POPダンスの動画を目にしたんだ。それを見よう見まねで踊ったりして、動画投稿もしてた。良い気分転換になってたけど、母さんに見つかったときはめちゃくちゃに怒られた」 そうだったんだ……。 「勉強なんて俺がいくらやっても兄さんほど出来ないのはわかりきってた。だけどダンスの素質はあったんだ。俺はそもそも後継者になるつもりなんてさらさらなかったし、その件で兄さんに疎ましく思われてるのも嫌だった」 イジュンは過去を思い出して傷ついたような顔をした。
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